「課題は、期待値コントロール」
もう一つは、皮肉だが、社会性の高さゆえの葛藤である。
「ハエの会社です」という流郷の「ツカミ」がイベント参加者に大受けになるように、彼女の事業はストーリー性がある。しかも食糧危機を救うというストーリーの最終地点はメディアが取り上げたくなる話題であり、それだけに期待値が大いに上がってしまう。
「この期待値コントロールに今、一番苦しんでいます」彼女はそう漏らす。
「事業を進めるごとにプレッシャーがかかってしまうのはもちろんですが、組織の規模が小さいので限界もあり、落胆させてはならないという思いがあります。そんなことを悩んでいると、事業に集中できなくなるのです。だから、スタートアップはメディアへの露出が上手であればいいというわけではないと思います」
「1万年かかる」と呆れられる
ただ、そうした悩みを解決するために動く人物もいる。この日のもうひとりのゲスト、ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション(SEA)代表理事の荻原国啓だ。
「僕は社会起業経験者による社会起業家を増やすための支援を行なっています。ソーシャル・アントレプレナーが市民権を得た今、彼らを支えるエンジェル投資家やアクセラレーターは増えていますが、社会起業家経験をベースに包括的に支える人はほぼいないのです」
社会性があるからこそ味方になってくれる存在が増えているいっぽうで、起業家の経験やノウハウが循環する「社会起業家コミュニティ」などはまだまだ未整備なのだという。
約20年前、荻原は大学3年生の時に「日本で最初にインターネット上のカウンセリングの仕組み」を作り、起業した。当時は、ストレートに、「悩んでいる人(個人)から問題を解決した対価としてお金をもらおう」と考えていたのだが、起業家の先輩から、「それでは事業として軌道に乗せるのに1万年かかるよ」とアドバイスされた。悩んでいる個人が潤沢な資金を持っているとは限らないし、一対一でカウンセリングを行っていても、「1万年かかる」と呆れられるほど起業家がスケールしないからだ。
大学生だった荻原は大事なことに気づかされ、社会性を重視してくれる企業から資金面での支援を依頼するようになった。
これにより、より多くの悩みを抱える起業家やその家族を助けることができたのだ。では、社会課題を解決していくうえで陥りがちな落とし穴とは何だろうか?
荻原は、「どこからお金を集めるかが大事」と答えた。
社会性と事業性のバランスをとるのが難しくなるからだ。前述した流郷の「お金に色がある」という発言がそうだったように、両立をさせるのは難しい。だから、資金提供といっても、出先の目的を熟知しておくのが必要だという。