ビジネス

2019.08.21 07:30

2019年は「昆虫産業元年」に。食料問題を解決するのはハエだ

ムスカ代表取締役CEO 流郷綾乃

ムスカ代表取締役CEO 流郷綾乃

「2019年を昆虫産業元年にしなければいけないんです」

そう話すのは、食糧問題解決を目指す昆虫テックスタートアップのムスカCEOの流郷綾乃だ。ムスカは、特殊なイエバエの幼虫を用いて、家畜の排泄物処理をし、「飼料」と「肥料」を生み出している。

宇宙飛行技術の一環で旧ソ連が研究していた技術をムスカの前身である会社が買い取り、その後ムスカ会長の串間充崇(くしまみつたか)が中心となって1100回以上の交配を繰り返して、成長速度が速く、大量に産卵するイエバエを誕生させた。イエバエの卵を、生ゴミや畜産糞尿にまき1週間放置し、成長した幼虫は「動物性タンパク質飼料」、幼虫の排泄物は有機肥料となり、畜産業や養殖業、農作物栽培に用いられる。

従来、1カ月以上かかっていた堆肥化が1週間と生産効率がよい、ムスカのこの技術は高く評価され、19年に入り、丸紅、伊藤忠商事と戦略的パートナーシップを締結、調達額は非公開だが、10億円超の資金調達を行ったとも推測される。

「いまの地球を次世代に渡していいですか、と言うと『NO』じゃないですか」

2児の母でもある流郷らムスカの問題意識は「世界のタンパク質危機」。世界の人口増により、30年には豚や牛の飼料である魚粉が供給限界に達すると予想されている。このままでは世界の食卓から肉や魚が消える可能性がある、というのだ。

ムスカが掲げる「循環システム」は、処理に頭を抱えていた畜産糞尿がイエバエの幼虫の餌となり、育った幼虫が養殖の飼料となりその残渣(ざんさ)が畜産へ。またイエバエ幼虫の排泄物が農作物の肥料となり、その残渣が畜産へと、バイオマス100%リサイクルを行うことができる。

「NPOでもいいのでは、とも言われました。その中で事業性にこだわるのは、巨大な既存の食市場の中で『ルールメイキング』できる立場にならないと解決につながるインパクトが出せないと思ったから。とはいえ、利益重視にならないために、我々が大事にしてきた理想は忘れないようにしています」(流郷)

現在、1号目の生産プラントが完成に向けて動き出している。今後、描いていくのは、次世代に渡したい地球の姿だ。

文=松浦朋希

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事