「国のお荷物」から「世界のモデルケース」へ
デンマークの首都コペンハーゲンから車で2時間ほど南下すると、ロラン島という人口約4万人の島がある。平野が広がるこの島には多くの風車が設置されており、島で必要なエネルギーは100%自ら生産した自然エネルギーで賄っている。サステイナビリティの先端を行く島として、世界の政府・企業・研究機関から注目されるモデル地区だ。
このロラン島も、20年ほど前は全く様子が異なっていた。石油危機の影響でかつての中心産業だった造船業が衰退し、高い失業率と人口流出による財政危機に苦しんでいたのだ。
転換のきっかけは、1998年にこの島のコミュニティが「環境」を自らの経済復興の柱として掲げ、地元の資源を使った自然エネルギーの事業化プロジェクトを仕掛け始めたことだ。土地を整備し、国内外から環境分野の企業や研究機関を誘致し、最新技術の実験的な導入ができる場所として提供した。
この施策が雇用の創出と経済の活性化に繋がり、1994年に19%だった失業率は2008年には2.8%にまで減少。もともと環境関連の産業があったわけでもなく、衰退していく地方都市の一つに他ならなかった島が、たった10年近くで150%の自然エネルギーを生産する世界のモデル地区へと変貌を遂げたのだ。
ロラン島のNysted(Getty Images)
これを支えたのは、住民の強いオーナーシップを活かす仕組みだ。一般家庭による「マイ風車」の設置や、地元の協同組合による出資を助ける補助金や税優遇、そこで生産されたエネルギーを固定価格で買い取る仕組み、一部の企業や富豪による寡占を防ぐための制約、運用課題に関する情報交換の場など、そこに住む多くの人々が直接参加し利益を得やすい仕組みがデザインされてきた。
窓から見える距離に自分が出資した発電装置があり、自らの利益になる。自然エネルギーの生産と活用に当事者意識が生まれれば、一人一人が本気で考え、意見交換が加速していく。デンマークには、このように個人や地域の自発的な行動を促進させる枠組みが多い。アジャイルな組織に重要な、個人同士の対話・現場への権限付与・トップの強いリードといった要素が揃っているのだ。
福祉国家 ≠ 国任せ。ベンチャー企業のような国家
筆者はかつて、デンマークが税金の高い平等な福祉国家だと聞いて、「国が決めたことに住民が従う」構造をイメージしていた。しかしデンマークが環境先進国となった経緯を振り返ると、住民が考える機会を持ち、住民の意志で自然エネルギーが選択され、住民が平等に力を発揮しやすいような枠組みを国が提供する、質の高い民主主義を実現している国である事が分かる。
「デンマークは小さい国だから、誰かに任せていたら回らない。国も地方も、男も女も関係無く、一人一人が参加して協力する必要があるんだ」という現地の声を聞いたことがある。
住民と政府の距離が近いデンマークの投票率は、1945年以降80%を一度も下回った事がない。一人一人がオーナーシップを持って力を発揮し合うこの組織(国)は、ビジョンに向かって信頼する仲間と共に挑戦する、一つのベンチャー企業のようだと感じた。