「入院すると、家庭と病院と、家計が2つになるわけで、そうすると自分の食費にお金をかけられないでしょう。だから値段は200円くらいにして、寄付でお米をもらったり、寄付金をあてて、安く提供したりしています。コンビニばかりじゃ栄養が偏るでしょうから海藻や野菜をなるべくたくさん入れたいんですよね」
坂上さんの言葉から単に食事の提供だけではなく、保護者への労いや気遣いが味付けになっていると感じた。
ミールサポートにかける思い
また、自身の病児付き添いの経験から保護者への定期的な食事提供、さらに病院関係者が気にする衛生面での問題をクリアするために、缶詰にして食事を提供しようと動き出した団体もある。特定非営利活動法人「キープ・ママ・スマイリング」のミールサポート、「ミールdeスマイリング」プロジェクトだ。
理事長の光原ゆきさんは、長期間の付き添い経験の中で、酷い食生活を味わった自身の経験を踏まえてこう語った。
「現在、私たちの団体では、東京都内のファミリーハウスと小児病棟の2か所で、かつての私と同じような思いをしている病児のお母さんに栄養バランスのとれた食事やお弁当の差し入れを定期的に行っています。そして、一人でも多くの付き添いママを食事で応援したいと、缶詰で食事を提供することを思い立ちました」
レトルト化にあたっては、ミールサポートを始めた当初からメニューの作成や調理指導をボランティアで担当する、ニューヨークの三ツ星レストランのシェフとして活躍した米澤文雄さんの協力を得たという。
光原ゆきさん(左)と米澤文雄さん
「試行錯誤の末に今年の春、4種類の缶詰が完成しました。この缶詰を試食したお母さんや病院関係者の方たちには『缶詰とは思えないクオリティだ』と大好評です」
同団体では、災害備蓄食として企業が缶詰を購入し、賞味期限が近づいたら企業CSRとして病児に付き添う保護者に、備蓄食としての役割を終えた缶詰を無償提供することもできる仕組みを考えている。
光原さんは自身の実体験を原動力に、様々なスタイルで小児病棟の付き添いママに食事を届けることを考えている。そして何よりも提供している食事が「おいしい」のがとても印象的だった。
当事者へ寄り添う取り組み
子どもの病気を治療するために入院しているので、保護者は影の存在になるのはいたしかたない。
最近のコンビニ食は味付けや栄養面でもとても優れているとは感じる。外食にしても、自分で自炊しなくて済むのだから家事の負担軽減になるという考え方もあるだろう。
しかし、病院付き添いでは毎日毎日似たような食事のルーティンを、短時間で、毎食一人ですることになる。この環境は、家庭生活と比べて間違いなく非日常的なのだ。