2009年にユネスコが発表した「消滅危機言語」はおよそ2500語。その中に、日本で話されている言語も含まれている。
日本に危機言語がある、と言われてもピンとこない方が大多数だろう。なぜなら、多くの日本人は日本で話されている言語は日本語だけと考えているからだ。
日本における消滅言語のひとつが、主に北海道に居住し、かつては旧樺太、千島列島、東北地方北部などに居住していた先住民アイヌの言語「アイヌ語」だ。
「イランカラプテ」。アイヌ語で、「こんにちは」という意味の挨拶言葉である(「プ」は、アイヌ語の表記では小さく表示される)。直訳すると、「あなたの心にそっと触れさせてください」になる。近年では北海道の観光キャンペーンにもこの言葉が使われているので、ご存知の方もいるかもしれない。
アイヌ語は明治政府の同化政策の一環で使用禁止となり(※1)、話者が激減する。1898年に制定された旧土人保護法に基づき、アイヌの子供たちは強制的に日本的習慣を教えるアイヌ学校に入学させられ(※2)、日本語での教育が徹底された。またアイヌの親たちも自分たちの子供のことを考え、日本社会で生活をするためには日本語が流暢に話せる必要があると考えアイヌ語を教えようとしなかった。
その結果、2009年のユネスコの調査時点でアイヌ語話者は10数人程度と極めて少ない状況となった。
北海道のラジオ局であるSTVラジオでは、1987年からアイヌ語ラジオ講座を放送している。2018年度の講師を務めたのは、慶應義塾大学2年生の関根摩耶さんだ。摩耶さんは、アイヌが住民の7~8割を占めるといわれる二風谷地区で生まれ育ち、萱野茂さんからアイヌ語を学んだ最後の世代である。
アイヌ語弁論大会で2度の優勝経験を持つ実力者であり、アイヌ語の教材『ニューエクスプレス アイヌ語』(白水社)のアイヌ語音声や、北海道の日高地方を走る道南バスの車内放送でアイヌ語での案内も担当している。
ラジオのために毎週のように北海道と東京を行き来していた摩耶さんだが、そんな生活がひと段落したいま、新たな挑戦をしようと考えているという。アイヌ語の継承・発展に関わる若者世代の一人として、どのような想いで活動しているのか。話を聞いた。