──イベントやラジオ講座、インタビューと、精力的にアイヌ語の活動をされていらっしゃいますが、その原動力はどこから来るのですか?
自分が生まれ育ったアイヌ文化が大好きで、より多くの人にアイヌを知ってほしいと思っているからです。誰もが自分の故郷や文化を誇りに思っていて、自慢したいでしょう。私にとってのアイヌ文化もそれと同じ。アイヌに生まれたから、アイヌのためにやらなければならない、といった特別な使命感ではなくて、自分の育った文化に対する純粋な気持ちから、この活動に取り組んでいます。
──私も地元の香川に愛着を持っていて、都内で香川県人若手会など運営をしています。なぜそんなに熱心なのか尋ねられた時、単に「香川が好きだから」と答えると、拍子抜けしてしまうというか、がっかりしてしまうというか。「香川県の将来のため」、みたいな特別な使命感を求められてしまいます。
先祖が使ってきたアイヌ語を使って生活することができれば、それだけでとても幸せなんです。そんな環境を、自分の代では難しいかもしれないけど、自分の子どもや孫の代で実現できればいいなと思っています。そのために自分の活動が役に立つといいですね。
──自分が大切にしている価値観を多くの人が認めてもらいながら生きることができればとても幸せだと思います。一方で、まだまだアイヌ語がどんな言語なのか知らない人が多いと思います。摩耶さんはそんな人たちにアイヌ語のどんな点を伝えたいですか?
例えば、子どもが水をこぼした時、日本語では単に叱ったり、「あらあら」と思うだけでしょうが、アイヌ語だと「そこに水が飲みたい神様がいたんだね」と表現するんです。あらゆる事象を人間ではなく神の意思だと考える価値観が表れています。
狩猟にしても、日本語では「動物を矢で射る」と表現しますが、アイヌ語では「正しい人間には動物側から矢に当たる」と表現します。アイヌの考え方では、神と人間は対等かつ取引関係にあると考えられています。神は神の世界では人間と同じ姿をしていて、人間界に来るときに毛皮などのお土産を持ってやってくる。そして正しい人間のもとに(矢に当たる)ことで行き、そこで盛大にもてなされて人間からもらったプレゼントをもって神の世界に帰る。というような物々交換と考えられています。
このように、アイヌの持つ価値観や文化をアイヌ語を通して知ることができる点がとても面白いと思います。