「自分が新たな決断を下して、それで結果を出せなかったら『何だ、やっぱりダメじゃん』と言われるのが明らかだったので、その意味でホッとしている。移籍してからいいこと続きだし、サッカーの神様がいるんじゃないかと思いますけど、これがビギナーズラックにならないようにしないと」
プロとして開幕を迎えた昨シーズン。久保はストレスを溜め込んでいた。FC東京での軌跡はすべて途中出場で4試合、わずか58分のプレー時間にとどまっていた。5月以降はベンチ入りメンバーからも外れ、U-23チームが参戦しているJ3がいつしか主戦場になっていた。
FC東京を率いる長谷川健太監督が攻撃陣に求める、ハードワークを実践できなかったことが理由だった。泥臭い守備とボールをもたないところでの献身的な動きを学ぶ地道な作業を、高く跳ぶためにあえて低く屈む時間を、たとえるなら「急がば回れ」を、当時の久保は受け入れられなかった。
しかし、慰留を振り切る形で飛び出した新天地でも、時間の経過とともに出場機会が減少していく。マリノスが残留争いに巻き込まれたこともあり、9月以降は途中出場で3度ピッチに立っただけでシーズンを終えた。そして、この過程で久保がもつ稀有な力のひとつが発揮される。
なぜ試合に出してくれないのか──FC東京時代から抱いてきた、監督を含めた外側へ向けられていた疑問が、時間の経過とともに「なぜ試合に出られないのか」と内部へと向けられた。客観的な視点から分析し、自分自身に問題があると弾き出された答えが覚醒への序章になった。
「サッカーはチームスポーツなので、自分が、自分が、というわけにはいかない。選手一人ひとりに特徴があるとは思いますけど、チームの勝利が最優先されるなかで、土台となるチームのコンセプトを実践できなければ試合に出られないのは当たり前のこと。その上で攻撃では自分の特徴をしっかりと出して、チームのいいアクセントになればいい、ということをこの1年間で、十代の早い段階で学べたことは一番大きな収穫だと思っています」