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2019.07.06

令和に打ち上げ成功した民間初のロケット「MOMO3号機」秘話

背水の陣で臨んだ打ち上げ

昨年のゴールデンウィークに打ち上げる予定だったが、機体の不具合があり6月に延期した。そして6月の打ち上げは20mくらいしか打ち上がらず、地上で大爆発することになり、ものの見事な失敗に終わった。もちろん誰よりもショックを受けたのはISTの稲川社長と同社の社員であり、堀江さんと支援者たちではあるが、投資商品であるひふみのキャラクターの「ひふみろ」が爆発するのは当社の顧客にとっても縁起がよくない。

そのとき、私は幼稚園児の男の子と一緒に見ていた。彼はロケットの打ち上げを楽しみにしており、ロケットや宇宙についての話を色々としてくれた。ロケットの打ち上げが失敗に終わったことを知ると、目に涙をいっぱいためて号泣した。悲しかったんだね。

そうしたこともあって、MOMO3号機に対するスポンサーはかなり勇気がいる決断だった。2回失敗している事業者が3回目に成功する保証などどこにもない。むしろ、ふつうは成功しないと考えるだろう。

しかし投資家の仕事とは経営者を信じ、彼らの挑戦に手を差し伸べることだ。ある意味、投資の本質や意義を広く伝えるよい機会でもある。さらに一緒に見学をした男の子にも、何度でも挑戦して失敗してもあきらめずにやれば、きっと成功するという実例を見せたかった。

さらに資金調達の面でも厳しいことはよくわかっていた。2回失敗した会社に出資したり、スポンサーになったりする会社は非常に少ない。そうしたなか、当社が降りることもなかなかしにくいところではあった。乗りかかった船ならぬ、乗りかかったロケットなのだ。

当社の中でも紛糾したが、結果的には会社が3分の1、私個人が3分の2を出資することで決着した。会社の自己資本は余裕綽々(しゃくしゃく)というわけではないので、次のスポンサーはなかなか難しいだろう。当社も背水の陣であった。すでに2度失敗したプロジェクトのスポンサーになることで見る目がないと言われかねない。

だからこそ、ロケットが宇宙へ飛んだことに色々な意味でホッとしたし、うれしかった。あの男の子も打ち上げの成功を見て、とても喜んだそうだ。きっと彼の人生にもよい影響を与えるだろう。

宇宙事業は単なる趣味の世界ではない。未来の基幹産業の一つになる可能性を持つ大きな市場だ。今回の成功で、日本での宇宙開発に拍車がかかるであろう。そのような大きな歴史の1ページの隅っこに加われたことは本当にうれしくもあり、そして誇らしくもある。

投資とは、何かに挑戦しようとする人を信じて託し、未来を切り開くことだというメッセージが伝わればいいなと思う。


ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

連載:カリスマファンドマネージャー藤野英人の「投資の作法」
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文=藤野英人

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