そうすると、今まで「TAKE」ばかりを追い求めていた人たちの欲求の対象が「GIVE」へと変わり、「もっと貢献したい」「もっと与えたい」という人が増えてくるかもしれません。それを実現できるテクノロジーの基盤は整いつつある。そこに可能性があるのではないでしょうか。
丸山:私は、ある種の免疫みたいなものが、中学生ぐらいから必要かもしれないと思っています。例えば、貨幣は共同体から自由になるための手段であって、それ以上でもそれ以下でもないんだ、という定義を一つ知れば、違う視点で物事を考えることができますよね。全体の仮定や本質的な定義を問題にしないまま、経済理論の枠組みの中に入ってしまうと、結局、我々はお釈迦様の手のひらで踊る孫悟空のようになってしまうかもしれません。
「欲望の資本主義」シリーズからスピンオフした特別編では「貨幣」をテーマに、テクノロジーによって急激な変化を遂げている「お金」の概念とその本質を考えます。
BS1スペシャル「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019」は19年7月14日 午後10時から放送予定。
──特別編は、どんなメッセージが込められていますか。
丸山:欲望の本質は無い物ねだりです。貨幣の価値は根拠があるのか。資本主義の象徴、貨幣を我々は求めますが、その本質的な理由とはなんでしょうか。歴史上の知の巨人が格闘してきた疑問です。例えばケインズの「流動性選好」。利子を生まない貨幣を他の金融資産より好んで保有するのは貨幣のもつ流動性のためだとケインズは考えました。お金は「未来に対する可能性」だという一つの画期的な解釈です。
普段、商品と交換するためだけに使っている貨幣について、今のような時代だからこそ、もっとリアルに丁寧に考えないと、ある種の幻想の貨幣愛や長者番付への執着に見られるように、目的と手段が逆転してしまう。貨幣そのものへの考察を通して、それが見えてくることを狙いました。
安田:出演する経済学者の岩井克人先生の「貨幣論」(ちくま学芸文庫刊、1993年)は、専門書として異例の売り上げを誇る名著ですね。「貨幣論」では、アダム・スミスが国富論で論じたように、貨幣は物々交換の困難を克服し経済を円滑に回すために生まれた、という有名なストーリーが語られていますが、最近の研究では貨幣の起源は物々交換ではなかった、という説が一般的になっています。
むしろ、租税を行う時に誰から何をどれだけ調達したのか、あるいは私人間での物品の貸し借りなどを書き留めた記録・帳簿がお金の起源ではないか、という証拠が出てきています。貨幣にはまだまだミステリアスな部分がありますね。
丸山:暗号資産、いわゆる仮想通貨(=クリプトカレンシー)に多くの関心が寄せられています。貨幣の概念がどう更新されるのか、そもそも貨幣とは何なのか──。一緒にミステリーを楽しむようにその本質に迫りたいと思います。