テクノロジーの変化によって、「お金」の概念やその本質が変容を遂げ、資本主義のあり方も変わるかもしれない。令和の資本主義、そしてお金の本質について、大阪大学経済学部准教授の安田洋祐と今年1月に『14歳からの資本主義 君たちが大人になるころの未来を変えるために』(大和書房刊)を上梓したNHKエグゼクテブプロデューサーの丸山俊一に話を聞いた。
──新時代の資本主義を考えるにあたって、何がポイントになると思いますか。
丸山俊一(以下、丸山):『14歳からの資本主義 君たちが大人になるころの未来を変えるために』を書きましたが、この本ではグローバル化やテクノロジーがもたらす激変に加えて、「共感」が商品になる時代の難しさを指摘しました。「共感経済」は希望や可能性が大きい一方で、それが持っている危うさの部分を私は感じています。その両義性を失うことなく、14歳の子たちにも考えてほしいと思いました。
NHKエグゼクテブプロデューサーの丸山俊一
本の後半は、経済学からはかなり外れて、社会学、心理学、哲学、精神医学のエッセンスを思いのまま入れています。いまは、数百年単位の文明論的変化の時代で、経済学だけでなくさまざまな学問を踏まえて考える必要がある、という問題提起をしたかったからです。それは大人でも14歳でも必要な考え方ですね。
安田洋祐(以下、安田):最近では共感経済のほかにも、近いニュアンスで「トークン・エコノミー」という言葉も使われるようになりましたね。共感経済とは、日本の法定通貨である円を物差しとし、短期で匿名の取引を行う市場型の経済システムに対して、それ以外の物差し、例えば利他性に基づく善意や互恵性に基づく助け合い、といった違う形の経済圏を目指す構想だと理解しています。
昔は構想があっても実装手段が限られていましたが、いまはトークンやブロックチェーンといった技術が普及してきました。実業家やNPOの進出が相次ぎ、新しい地域通貨や仮想ポイント、企業内仮想通貨の導入などが増えています。通貨という名前がついていますが、コミュニケーション・ツールにもなっているのが特徴です。初対面だったり、遠隔で交流したりする場合の潤滑油になりうる。これは面白い試みですし、今後も増えていくのではないかと期待しています。
丸山:確かに、新しいコミュニケーションのさまざまな形の交流、交換には、可能性があると思います。私はその自由さを尊重したいと思うと同時に、難しい両義性も感じています。
貨幣の一番の価値は、ある種の匿名性にあると思います。例えば、初めての海外に行っても、通貨さえ出せば客になってやりとりができる。そういった「共同体から逃れられる自由さ」が貨幣の価値だと考えると、データを使った信用経済(貨幣よりも信用が価値を持つ経済)はその自由さがないように感じるのです。