仮想住所でラストワンマイルを構築するスタートアップ「Mpost」
約5000万人が住むケニア国内には、全国623ヶ所の郵便局と約44万個の私書箱が存在。私書箱が国内の郵便網をカバーしている。しかし、国営郵便局で郵送物を受け取るために私書箱を利用するには、年間42ドルを支払う必要がある。ケニア国民の平均月収は月収5万円以下。大多数のケニアの国民には高額である。
現在私書箱は、主に企業が郵便物を受け取るために利用されている。それゆえ、個人が郵便物を受取る手段がなく、特に行政・銀行手続き、また身分証明ができなくなり、社会保証を受けられないことが国民の大きな課題だった。行政視点で考えると、各地域にどのような人が住んでいるのかを把握できないため戸籍管理も納税も煩雑であり、住所や地番を整備するにも莫大なコストがかかる。
ケニアを拠点に活動するスタートアップ「Mpost」は、携帯電話を活用し、ケニア国内で仮想住所システムを提供してラストワンマイルを構築している。携帯電話番号をMpost上に登録することで個々に仮想住所が発行され、それを基に郵送物を受け取ることができるようになる。
フィーチャーフォンの利用者は、発行されたバーチャルアドレスを登録しておくことで、郵便物が配送・配達されたことをSMSで知り、最寄りの郵便局や街のキオスクで荷物を受け取ることができる。スマートフォンの利用者にはGPSで自分の家・職場・外出先など、その時々のユーザーがいる場所へ物を届けることができるようになった。人がリアルタイムにいる場所に物を届けるため再配達問題も起こらない。
現在ケニアの国営郵便局とのパートナーシップ締結により、国営郵便局が持つ3.5万台の配送バイクとドライバー、600の郵便物流拠点、44万個の私書箱を活用し、ケニア国内の物流網を構築している。また、先日このMpostを公的住所として利用することをケニア政府から認可されたことで、この仮想住所でパスポート等の公的書類や履歴書への住所記載が出来るようになった。
Mpostは、住所が機能しない世界だからこそ、既存のテクノロジーを駆使することで物流インフラにおける取引コストを大きく削減し、現代に最適な手法でラストワンマイルを構築している。言い換えるとこれだけスマートフォンが浸透している現代において、物流は場所に届けるのではなく人に届けるだけで事足りるのかもしれない。
場所や時間に縛られない未来に向けた物流のアップデート
中間所得層とスマートフォンユーザーの増加が、アフリカ経済を急成長させる。そんな近未来に向けた物流網の構築は急務であり、小売流通市場においても製造から販売、顧客管理、配送、決済とそれぞれの役割を持つMpostやJUMIAのようなスタートアップと、既存産業プレイヤーがリアルとデジタルを上手く組み合わせてバリューチェーン上で連携することで、アフリカの物流が効率化され、複数社による一つの経済圏が形成されている。
今後日本でも、ワークライフバランスやデュアルライフといった場所や時間に縛られない生活を求める人が増加していくだろう。それにしたがって、先進国にも「場所」という概念への考え方、物流自体のアップデートが求められると感じている。この課題は決して住所を持たない人々がいる新興国だけでなく、先進国に対してもアフリカのリープフロッグ現象を象徴する事例として、新しい概念の物流が構築されることを期待したい。
連載 : アフリカのVCが見るローカルスタートアップ
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