この30人は、渋谷区に関係する企業から20人、NPOと市民から8人、行政から2人という内訳で構成される。そのディレクターという仕事柄、「なぜ30人なのか?」と聞かれることがよくあるが、それは、30人が「多様性を担保できる最小限の数」だと考えているからだ。学校のクラスのように「お互いの顔が見える適正数」というとイメージしやすいかもしれない。「渋谷をつなげる30人」は、街の同級生のようにフラットにつながるネットワークなのだ。
このプロジェクトの特徴は、30人がつながり合うだけではなく、その周囲の関係者(ステークホルダー)もつなげ、メンバーそれぞれが「地域の課題」と「組織のリソース」をつなげるイノベーターになるところにある。つまり、これからの時代に求められる「シビックプライドを持った地域事業プロデューサー」の育成である。
しかし、言うは易し、行うが難し。一見楽しそうなこのプロジェクトも最初は悪戦苦闘、試行錯誤の連続だった。そもそもセクターによって根底に流れる価値観も違えば、普段過ごしている環境も異なる。お互いのセクターが大事にしている価値観を理解し、また渋谷区の課題を自分ゴトとして捉えるまでかなりの時間を要する。
30人が集まって、議論して、綺麗なパワーポイントを作るのはそう難しくないかもしれないが、課題を“ジブンゴト”にして、魂を挿れた企画を作り、組織の協力を得ながら、街ナカで小さなアクションを実行していくにはなかなか簡単ではない。
突破力の鍵は「オープンセッション」
「渋谷をつなげる30人」では、クロスセクターによる地域事業を創造していくためプログラムを大きく3つのフェーズに分けている。
最初は「発想」フェーズ。1人1人にファシリテーションスキルを身に付けてもらい、それぞれの思いや課題、リソースについて、3カ月かけて丁寧に共有。渋谷区の可能性を拡げるアイデアを考えながら、5〜6つ、テーマを持つチームを作っていく。
興味深いのは「この問題を解決したい!」という「課題」ありきではなく、「この人とこんなことをやってみたい」という「関係性」ありきでチームが作られていくことにある。経験値として、課題ファーストだと往往にして上手く行きにくい。信頼関係やワクワクがベースにあるとそれを乗り越えやすいのだ。