2つ目は「企画」フェーズ。上記で出されたアイデアを具体的な企画に落とし込んでいく。ここでは「クロスセクターじゃなきゃできない企画」を突き詰めていくが、まともに正面から議論をしていては大体行き詰まる。そこで開催するのが「オープンセッション」だ。
チームメンバーが自分の組織関係者やテーマに関するステークホルダーを集め、チームで考えた「新たなワクワクする問い」を投げる。このオープンセッションでは、各メンバーの発言が、「我々、渋谷をつなげる30人は……」と主語が変わるところが面白い。この段階から、自分たちが主体者であり、ステークホルダーをつなげるイノベーターであるという自覚が増していく。
3つ目は「実装」フェーズ。オープンセッションで出てきたワクワクするアイデアを、素早く街の中でプロトタイピングする期間を設け、実装に向けて共創していく。ここでは、「綺麗なパワーポイント」を作っても意味がないということをメンバーが体感することに意味がある。クロスセクタープロジェクトでは、小さくてもいいから一歩踏み出すことが何よりも大事だからだ。
この実装フェーズで、メンバーは「自分(たち)がやりたいことで、(自らが所属する)組織を動かす」挑戦をしていく。時には大きな壁が待ち受けているが、この経験は本業ではなかなか体験し得ないことであろう。
課題は、渋谷の「落書き問題」
では、コレクティブ・インパクトを体現するプロジェクトとは実際どんなものなのか。その一例として、今回は3期(2018年度)の活動からうまれた「落書き消しプロジェクト」を紹介する。
渋谷区内では、渋谷駅周辺を中心として「落書き」が多発していた。「行政がきれいにすればいいじゃないか」と思うかもしれないが、基本的に所有物を管理するのは所有者であるため、行政にできることは所有者に清掃用具の貸出等に留まっていた。それに、頑張って消しても翌日にまた落書きされるというイタチごっこ……地元には諦めの空気が漂い、治安の悪化を懸念する声が上がっていた。
このプロジェクトは、非営利組織メンバーとして、壁面アートの専門家であり落書き消し活動をしていたCLEAN &ARTの傍嶋さん、恵比寿新聞の髙橋さん。企業メンバーとして、京王電鉄の大淵さん、東急不動産の伊藤さん、ファッションブランド ビームスの中村さん、自動車部品や電動工具を扱うボッシュの室井さん。そして、渋谷区の環境行政を担う渋谷区役所 環境政策部の丸山さんという7人で構成された。
プロジェクト始動時は、傍嶋さんを中心に集い、「どうしたら渋谷区の落書き問題が解決するだろうか?」という問いを設定し、企画づくりを進めた。企業メンバーも、落書き問題と自社のビジネスをどう繋げていくかについて検討を進めていたが、「落書きも渋谷を象徴するアートではないか?」「落書きとアートの線引きはどこなのか?」などの論点に集中し、決定的な打開策を見つけられないでいた。