シャンパーニュ地方は、伝統的なワイン産地だが、ブドウ栽培が可能な北限に位置し、冷涼な気候で雨が多い。2019年も、4月半ばでさえ、朝方は零下に気温が下がるくらい冷え込み、ブドウ畑では霜のリスクが懸念されたほどだ。
そのような厳しい気候条件のシャンパーニュで、「オーガニック栽培」に注力する「ビュル・ビオ(Bulles Bio)」という生産者団体がある。
4月の半ば。毎年恒例のシャンパーニュ春の祭典の試飲会が開催され、世界中からシャンパーニュの専門家が、中心地であるランスの街に集まった。筆者も、そこで開催された今年10周年を迎えるビュル・ビオの試飲会と記念パーティーに参加した。
オーガニック栽培にコミットする生産者団体
ビュル・ビオは2010年に結成された。当初は20の生産者で、メンバーが所有するオーガニック栽培の畑の合計は150ヘクタール程度だったが、今ではメンバーも80生産者に増え、合計の畑も900ヘクタールに拡大している。
シャンパーニュ地方の畑の合計は約3万4000ヘクタールと広大なので、数値上の割合としてはまだ小さいが、知名度が高く、牽引力がある有力な生産者が多く、その影響力は増している。
メンバーは、自分が所有する畑からワインを造る小規模な生産者が中心だが、ルイ・ロデレールやフルーリー、ルクレール・ブリアンといった、大手メゾンも名を連ねる。
メンバーになる条件は、オーガニックやビオディナミの「認証」を取得していること。この団体の代表を務め、オーガニック栽培のリーダー的存在のパスカル・ドケ(Pascal Doquet)氏は、「形式より、同じ考え方を共有できることが大事だ」と言う。
代表のパスカル・ドケ(Pascal Doquet)氏
世界のワイン産地で、こういった農法をおこなうワイナリーが増えているが、単にオーガニックやビオディナミを実践していると謳うことと、この団体のメンバーのように実際に「認証」を取得するのには大きな違いがある。たとえば雨が多く降ったときなどブドウに病害のリスクが広がるときでも、認証を持つ生産者は、特定の薬品しか使えず、病害を受け入れるしかない場合もある。その結果、その年のブドウの収穫量が大幅に下がることもある。
ドケ氏は、認証を維持しながらブドウ栽培することの大変さを強調し、「わたしたちは、安全綱がない状態で綱渡りをしているようなものだ」と語る。