4月、ブドウの芽が出て、新しい生育サイクルが始まる頃、ルラージュ・プジョーの畑を歩いた。土はふかふかして、多様な生態を尊重した畑は生命力に溢れ、美しかった。
ドミニク氏は、オーガニック栽培に移行した理由として、次世代である子どもたちに「より良い畑を残したかった」ことや近隣住民の健康に配慮したことを挙げる。移行してから10年近くになるが、ブドウの質の向上も実感していると言う。
当主のルラージュ・プジョー夫妻。ヴリニー村の畑にて。
ドミニク氏は、なるべく人的な介在をしない自然なワイン造りに取り組む。泡のワインだけではなく、赤白ともにスティル・ワインも造る。
このヴリニー村の付近では、ムニエが面白い。このブドウは、シャンパーニュの3つの主要品種のなかでは、ピノ・ノワールやシャルドネに比べて、これまでは知名度が劣っていたが、最近では、その個性に注目し、ポテンシャルを引き出そうとする生産者も出てきていて、シャンパーニュの多様性の広がりを感じる。
ルラージュ・プジョーでも、ムニエは重要なブドウ品種だ。エントリーレベルの「Tradition」のキュヴェはムニエがブレンドの過半数を占め、他にもムニエ100%のシャンパーニュやスティル・ワインを造る。
ドミニク氏は、独創的なアイデアで他の人が思いつかないワインも造る。「ハニー・ハーモニー」(Honey Harmony)というシャンパーニュは、自家製の蜂蜜をドサージュに使った珍しい商品。もともとドサージュの量は1リットルあたり3グラム程度と少量なので、蜂蜜の影響は大きくはないが、香りにほのかに蜂蜜のニュアンスが感じられ、口当たりもまろやかになっていると感じた。
前述のドケ氏が語るように、オーガニックやビオディナミ栽培は、ラベルに載せて消費者の興味をひくといった、形式だけのものではない。こうした農法に注力し、情熱を注ぐ生産者だからこそ、良質なブドウが収穫できる。
もちろんオーガニック栽培のブドウだからといって必ずしも美味しいワインができるわけではなく、ブドウ栽培やワイン造りには、要所において人による適切な判断が大事だ。それが結果として、完成品としてのワインの美味しさに繋がるのだ。
島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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