ユーチューブでアニメを公開しただけで、1億7000万回再生、事故件数21%減
カンヌライオンズで史上最多の5部門でグランプリを獲得した作品がある。メルボルン鉄道の安全啓発キャンペーンムービー「Dumb Ways to Die(バカな死に方)」だ。
色とりどりのキャラクターたちが「瞬間接着剤を食べる」「蜂の巣で遊ぶ」、など次々にくだらない死に方を歌いながら紹介。
動画の終盤で取り上げられるのは「プラットフォームの端に立つ」「踏切を強引に渡る」「線路に立ち入る」など、同鉄道会社で実際に起きている死亡事故の原因だ。
同鉄道で増加傾向にあった事故死を防ぐため、「危険です」「やめましょう」と恐怖心を煽るような方法で注意喚起をするのではなく、ブラックジョーク色の強い3分ほどのアニメをユーチューブやフェイスブックにアップしたのだ。
ユーチューブでの動画再生回数はこれまでに1億7000万回を超え、子どもが覚えて歌ったり、世界中の人が「歌ってみた」動画を投稿したり、使用された曲がベルギーのヒットチャートで最高9位を記録するなど、世界中にメルボルン鉄道のメッセージが広がった。キャンペーン後は事故件数が21%減。このキャンペーンで守られた命もあっただろう。
「ファンチャイズ・モデル」「フィアレスガール」「バカな死に方」、どれもシンプルで多くの人がわかりやすいアイデアだ。
2019年、歴史に残る作品は生まれるか
「カンヌライオンズ」の全体像を把握するのが難しいと言われる理由は、その規模の大きさだろう。2018年から会期が8日間から5日間に短縮されたとはいえ、連日朝から夜までセッションや授賞式が行われる。2018年は全90カ国からエントリー作品が集まり、受賞作品は合計1186点にのぼった。
毎年新たな部門の開設やカテゴリの編成変更があるが、2019年は大きく9つの「トラック」という部門に分けられ、それをさらに細分化した単位「ライオンズ」ごとに参加者は作品をエントリーする仕組みとなっている。
ライオンズごとに各国の審査員、約10名が名を連ね、今年はReachトラック「Creative Data Lions」で審査員長を務める電通エグゼクティブ・クリエーティブディレクターの佐々木康晴、Craftトラック「Digital Craft Lions」で審査員長を務めるInamoto & Coのレイ・イナモトなど、日本人も審査員として参加する。
また、2017年、モバイル部門全体のグランプリを受賞した、スマホで精子セルフチェックができる「Seem」が今年も出展するなど、日本からも多くのエントリー作品が集まる。
今年、日本からグランプリは出るか。過去の受賞作品のように、企業の売り上げに貢献するだけではなく、人の行動を変えるような社会的メッセージは生まれるか。Forbes JAPANは期間中、広告という枠にとらわれず、世界を視野に入れて活躍するビジネスパーソンの参考になるクレイジーなアイデアを伝える。クリエイティビティで結果を出したいビジネスパーソンには、是非チェックしてほしい。