ビジネス

2019.04.19

オリジナリティーは「仕組み」からしか生まれない コルク代表×電通プロデューサーの結論

コルク代表 佐渡島庸平(左)、電通ビジネスデザインスクエア吉田将英(右)

人気コミック『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』を世に送り出し、作家を育成することをビジネスとする佐渡島庸平氏と、電通若手プロデューサーにして「若者研究部(電通ワカモン)」研究員を兼任、『仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力』など書籍も執筆する吉田将英氏。

アイディアを量産する両者に「オリジナリティーを生み出す仕組み」について語ってもらった。


吉田:佐渡島さんは、編集者として、作家エージェントの経営者として、「人にオリジナリティーを出させる」立場にいるわけですが、どのようなアプローチをされているのでしょうか? ただ単に、「面白いもの描いて」とか、「驚くようなアイディア出して」などと言ってもダメじゃないですか。

佐渡島:まずその人のことを好きになって、とことん話します。その人にとっては何気ないひと言に対してでも、「それ超面白いじゃん! もっと表に出したら」と言います。

本人にとっては普通のことでも、こっちが本気で面白がれば、「そんなに面白がるなら、ちょっとやってみようかな」となる。とにかく、その気にさせる。そして、本人の「その気」の先にオリジナリティーが生まれるのです。

吉田:話題を集めた『漫画 君たちはどう生きるか』(戦前の吉野源三郎さんの小説が原作)の羽賀翔一さんのマネージメントも担当されていますね。羽賀さんとはどのように関わられたのでしょうか?

佐渡島:5、6年前に「描くことが何もない」と羽賀くんがオフィスに通っていたとき、「とにかく毎日ここに来て、些細な出来事でもいいから漫画にしてご覧よ」とアドバイスしました。

吉田:オリジナリティーを出すためには、それを生み出す仕組みづくり、つまり習慣が大切、ということですよね。

佐渡島:習慣をどうつくるかが全てだし、世の中の偉大な芸術品はどれも「日常の感情」から生み出されていて、日常を超えて悲劇に立会うことから偉大な作品が生まれた例はあまりないのです。


『漫画 君たちはどう生きるか』の作画を担当した羽賀さんがコルクで書き始めた1ページマンガ「今日のコルク」。

吉田:うちの会社のクリエイターで、3年目から5年目の伸び悩みあるいは中だるみの時期に、「うちの両親は離婚もしてないし、貧乏だったわけでもないし、大きな挫折もないし」などと言って、オリジナリティーのなさを、自分の平凡な人生のせいにする人間がいました。そういう人間は、「材料が普通だから」と言い訳する。

佐渡島:美味しい料理をつくる人間って、パスタとバターとコショウだけで美味しくつくってくれますからね。羽賀くんがあまり作品を描けないときに、「ドラゴン桜」の三田紀房さんのところに連れて行ったんです。三田さんにアドバイスをくださいって言ったら、「島耕作」シリーズの弘兼憲史さんの話をされました。

三田さんが言うには、「弘兼さんと一緒にいると、何をしていても楽しい」って。例えば、弘兼さんが知らない人を指差して、「ちょっとあの人を見てみて。きっと裏では、本当はこういう人だと思うんだよね。家ではこんなことをしてたりして……」なんて話しながら、笑わせてくるんですよ。

吉田:それは興味深いですね。

佐渡島:作品づくりがある程度のレベルになってくると、つくり手は皆、「それはダメ、それは前にあの作品があった、それも古い」などと言いがちなのです。

吉田:「そんなの面白いというレベルに達してないよ」なんて、よく言いますよね。

佐渡島:そして、そういう人がスゴい人だと思ってくる。でも、本当は逆で、弘兼さんのように何でも面白がることができて、その面白さをしっかりと伝えることのできる人がスゴい。料理に例えると、ジャガイモをじっと見つめて、「あっ、芽が出た」なんて本気で喜んでいる人ですよね。そんな人のジャガイモ料理はきっと美味しい。

逆に、「それダメ、それも古い」なんて言っている人は、食材としてあるはずもない幻のキノコを探しに行っているようなものなのです。
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取材・文=松浦朋希 写真=藤井さおり

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