ビジネス

2019.04.19 07:30

オリジナリティーは「仕組み」からしか生まれない コルク代表×電通プロデューサーの結論

コルク代表 佐渡島庸平(左)、電通ビジネスデザインスクエア吉田将英(右)


佐渡島:この前、役者さんと話したときに、「セリフをちゃんと暗記しないで演じる役者は、いつまでたっても本当の感情を込められない」って言葉が出てきたのです。「セリフを短期間で暗記する役者ほど、その後に感情に対するトライアンドエラーが長くできるから成功しやすくなる」と。これは示唆に富んだ言葉でしたね。
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同じように、情報を集めることに時間をかけすぎていてはダメなのです。さらに、質の悪い情報を集めていても何もできない。これでは素材の悪い厨房と同じです。

吉田:効率論と質論の話ですね。意志力(何かを決定する時に消費する力)を情報収集などで使い切ることなく、料理で言えば、素材を集めた後に、「さて、何の料理をしよう」というところに心血を注ぐということですね。

佐渡島:毎日仕入れに必死になっている厨房が、お客さんのペースに合わせて料理を出せないでしょう、という話ですね。よく、「牛乳ないから買ってきて」と言っているお店があるじゃないですか。あれでは美味しい料理は出てきません。
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吉田:食材探しで手一杯になっていますよね。「ベストセラーのビジネス書」というマグロを仕入れて、中に書いてあることを実践しない(料理をせずに終わり)、これでは何も変わらない。

佐渡島:編集者も同じだと思います。いろんな人に会って刺激を受けているのに、それをもとに行動に移す人が少ない。ビジネス本を出している出版社の経営や組織コミュニケーションが惨憺たるものになっている、というのはよくある話ですよ(笑)。



吉田:ビジネス書にも2種類あると思っていまして、1つは「これを読んだら考えなくていいよ」という本。もう1種類が、「これを読んだらよりよく考えられるようになるよ」というもの。

前者は甘い誘いの「仕入れが終わったらバッチリだよ系」。後者、つまり「厳しくもいい本」は、「これ読むだけじゃ何にもならないよ」とどこかに暗に書いてあったりとか、「結局、これはただのマグロで、煮るのか焼くのか、刺身で出すのかは自分で考えるんだよ」と言ってくれたりする。

でも、これだけ世の中に情報が溢れてくると、甘い言葉合戦になりがちで、前者の「この1冊さえ読めば、あとは考えなくていいよ」というものが多くなってしまう。

「チャラさ」も極めれば「価値」になる

佐渡島:僕が学んで得したことは、「甘い話はない」ってことです。世の中のどこにも、甘い話に飛びついてうまい汁を吸っている人はいない。それを求めて探しているとまず失敗します。

あと、「特別なことをしている人もいない」ということも付け加えておきます。成功している人は淡々と努力している。特別なことを圧倒的な時間をかけてやっているわけではないのです。

吉田:成功している人は、淡々と普通のことを繰り返していますよね。ほとんどの人は普通のことを粛々とやるのが嫌で、ああだ、こうだと言って、何も長く続かない。新しいことをやっても、1週間で結果が出ないとやめる。特別なこと、すぐ劇的に変わること、宝クジみたいなものばかり探しているように見えます。

佐渡島:とはいえ、コツコツ頑張ることが「いちばんの道だ」と言うと、一概にそうでもないかもしれません。今は、本当に価値観が変化していて、例えば、何も考えないチャラさも、それを極めるとひとつの「価値」になってくる。最近は何でも極めるとOKになってきている。ゲームばかりやっていると、昔は「食べられなくなる」と言われていたけれど、ネットがある今は、ゲームがものすごく上手ければ食べられますからね。

あと、チャラさでいうと、「どうチャラいのか」で「差別化(オリジナル化)」できると思うんですよ。チャラいことも、本気でやろうとすると、結構、難しいですよ(笑)。
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取材・文=松浦朋希 写真=藤井さおり

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