野田:私は「真面目な不良と、不真面目な優等生」という言葉をよく使うのですが、これからの時代は「真面目な不良」が重宝される時代になっていくと思っています。
与えられた仕事やタスクには疑問を呈す一方で、自分の組織において本質的に重要な課題は何なのかを問い、衝突が生まれたとしても行動をする。このとき、不真面目な優等生とは、疑問を感じても行動せず言われたことをやる人のことです。私も、定期的に座禅を組んだり、週に1回はいつもと作業環境を変えたりなどしています。
ずっと会社にこもって言われた仕事をこなしているのではなく、しっかりと組織や自分自身を向き合うために(=真面目な)戦略的にサボって余白をつくる(=不良)姿勢が大切なのではないでしょうか。
──至善館が教えている学問のひとつである「リベラルアーツ」は、ビジネスパーソンにとってどういった効能があるのでしょうか。
野田:リベラルアーツを学んでいるからといって、会社で出世したり業績が伸びたりといった直接的なメリットはないでしょう。
リベラルアーツとは古代ギリシャ時代において「生きるための学問」とされてきました。日本語ではしばしば「教養教育」と訳されますが、私はリベラルアーツのことを「最大のスキル教育」だと思っています。
人間という存在が、また本当に人間が大切にしたい価値観がわかる学問であると同時に、問いを立て、投げかける技術が磨かれるのです。
佐宗:少し前は、最新テクノロジーが社会を変えてきた時代でした。しかし、トランプ政権以降「テクノロジーでは社会は大きく変わらない(=テクノロジーによる変化の比にならないくらいトランプ大統領就任以降は社会が大きく変わった)」という価値観が一般化し、テクノロジー至上主義が壊れた。
そんな中で、人々が「種としての人間」と改めて向き合わざるを得ないタイミングなのかもしれません。今は、テクノロジーの変化に対し、人間性を付与する人間の意識の変化をどう作るかが必要になっています。
リベラルアーツはその人間性を再定義し、その思想をあらゆるビジネス、サービスに入れ込んでいくことで、テクノロジーによる変化に対するバランスを取るための教養として必要だと思っています。
そんななかで、社会や組織をひとつの生態系として捉え、世界を流動的で複雑なものとして捉える東洋的な思想を元にした至善館のMBA教育は、時代の先頭を走る一部のビジネスパーソンのみならず、社会で働くすべての人にとって今後さらに重要性を増していくのではないでしょうか。
野田智義(のだ・ともよし)◎大学院大学至善館理事長。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行入行。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクールより経営学修士号(MBA)、ハーバード大学より経営学博士号(DBA)取得。ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院特別生、ロンドン大学ビジネススクール助教授、インシアード経営大学院(フランス、シンガポール)助教授を経て帰国。2001年7月、全人格リーダーシップ教育機関であるアイ・エス・エル(ISL、Institute for Strategic Leadership)を創設。著書に「リーダーシップの旅」(光文社新書)がある。
佐宗邦威(さそう・くにたけ)◎共創型戦略デザインファームBIOTOPE代表取締役。P&G、ヒューマンバリュー、ソニーを経て、独立。ソニーの「SAP」立ち上げをはじめ、大企業から老舗企業まで様々な企業のイノベーション文化の創造やプロジェクトプロデュースを手がける。著書に「直感と論理をつなぐ思考法」(ダイヤモンド社)など。