佐宗邦威(以下、佐宗):そのとおりですね。多くのビジネスパーソンからは、「誰の幸せのためにやっているのか」という視点が抜け落ちていると思います。
個の存在は、他者の存在が前提のもの。外にベクトルを向けるためには、まず自分にベクトルを向ける必要がある。その余裕が無いから、野田さんがおっしゃるような状況が生まれているのだと思います。
ビジネスシーンは、モノやサービスといった実物経済から、個人の思い出や感動が重視される「経験経済」へと移り変わりました。
これからは「変革経済」へと遷移します。成果にコミットをするライザップや、いま改めてヘルスケアや趣味などのサービスにビルトインされているコーチングなどもその一種だと思いますが、他者に自己変革を促す「余白」を兼ね備えたコンテンツやサービスの提供によって、経済が回っていくという考え方です。
至善館が行っているMBA教育は「自分のビジネスはなぜ、どんな意味があるのか」ということ。問いを投げかけ、自分自身に問うことで自己変革を起こしていくことに意義があるのではないかと思っています。
──しかし私を含め、これまで正解を求められる教育を受けてきて、組織というシステムの中で働いてきたビジネスパーソンにとって、突然「自己変革をしなさい」と言われてもどう実践すればいいか戸惑ってしまいます。
佐宗:自己変革を起こすためには、「習慣を変える」か「修業をする」かの2パターンがあります。
「習慣を変える」とはどういうことか。それは、言い換えると「新たな習慣を変化と感じないように麻痺させる」こと。日常レベルにトリガーをたくさんつくり、小さな変化たくさん起こしていくことによって、次第に自己変革につながっていきます。
例えば、メモをスマホから紙に変えること。3月に発刊した拙書「直感と論理をつなぐ思考法」の中でも書いていますが、インプットやアウトプットのプロセスがデジタルのそれとは全く異なるため、思考の整理に繋がります。
自分が実践しているのは、作業をする場所によって役割を変えること。例えばチェーン店のカフェではメールの返信や事務処理など単純作業系を行い、おしゃれでクリエイティビティを刺激されるようなカフェでは事業の構想を練ったり、本を読んで自分自身と向き合ったりしています。
「自己変革をしよう」と張り切っても長続きしないので、まずは習慣化し、麻痺させることで徐々に自己変革につながっていくのです。