だが、関税を使って中国を脅してきたトランプに対し、今度は中国がカウンターパンチを繰り出してきた。
報復措置として米国製品への追加関税率をさらに引き上げると中国が発表したことを受け、世界中で株式相場が下落している。
貿易に関して言えば、トランプは無知で危険だ。先ごろ「わが国にとって関税は非常に強力なものだと思っている」と発言したが、トランプは「強力」ではなく、「有害」という言葉を使うべきだった。
悲しいことに、トランプと彼の通商担当チームの考えでは、米国が1976年以降ずっと抱えている貿易赤字は、自国が一番になるためには「悪い」ものであり、大幅に減らすべき(あるいはなくすべき)ものだ。
彼らはその「悪い」状態をもたらしている元凶は、外国との不公正な貿易協定であり、それら各国の不公正な貿易慣行だと確信している。そして、万能薬となるのは高率の関税と、その他の保護主義的な政策だと考えている。
「貿易」に関してトランプの通商チームがいかに愚かであるか、彼らの政策的処方がどれほど無益であるかという点は、貿易赤字について分析するための簡単な方法によって証明することができる。
経済学では定義上、恒等式が重要な役割を果たす。そして、国民所得勘定に関しては、以下の恒等式が成り立つ。
(輸入額-輸出額)≡(投資額-貯蓄額)+(歳出-税収)
この恒等式が成り立つとすれば、貿易赤字は民間部門における投資と貯蓄の差額と、政府における歳出と税収の差額の合計と一致していることになる。
つまり、貿易赤字の額は、民間部門の赤字と政府(連邦・州・地方)の赤字の合計と同額になる。貿易赤字は単に、鏡に映った国内経済の姿なのだ。
米国の貿易赤字は、いわゆる不公正な貿易慣行によってもたらされたものではない。“古き良きアメリカ”において作り出されたものだ。
トランプは、不公正な貿易相手だと特定した国を脅すことができる。相手国に対し、望むとおりにあらゆる規制を課すことができる。
だが、それによって米国の貿易収支が変わることはない。大統領の介入は、米国の消費者を苦しめることになる。
結局のところ、トランプの貿易政策は、自らの政権の財政政策によって台無しにされている。民間部門の貯蓄投資バランスの改善によって財政赤字を相殺することができなければ、貿易赤字は連邦債務の増加によって拡大する。
米国の貿易赤字を生み出しているのは、「その最大の敵」であるトランプ自身でもあるということだ。
トランプは今こそ、点と点をつないで全体像を理解し、貿易に関する現実に目を向けるべきだ。
だが、それは起こりそうにない。トランプとそのチームは、貿易のことを何も知らない。トランプが中国にパンチを食らわせ、中国はカウンターパンチを繰り出し、両国の貿易戦争はまだ続くだろう。