こうして、ミツフジのIoTウェアラブル「hamon」は、ユーザーの用途に応じた形状でウェアを展開。医療、介護やスポーツ分野の体調・コンディション管理などで利用されている。
しかし、「女性」というハードルがあった。
「女性に着用してもらう場合、ブラジャーという下着を一枚挟むため、取得できる情報の質が男性と比べて低くなるケースがありました」と、同社は言う。 スポーツブラ形状のウェアラブル端末を開発している企業もあった。同じくミツフジも展開していたが、すべての女性が共通して日常的に使用するには、さらなる工夫が必要だった。それは下着としての美しさや着心地である。
日本のトップブランドと、中小企業のユニークなタッグはこうして誕生した。
「ワコール様の技術を使うことで、データ取得技術だけに特化することなく、バストシルエットの美しさと着心地を叶えられる設計であり、トランスミッターを装着しないときは、通常の下着として着用頂けます」(ミツフジ)
ミツフジは、「ベンチャー型事業承継」と呼ばれる。伝統的な自社技術を土台にして、後継者がベンチャー企業のように新規事業を打つことだ。大廃業時代と呼ばれて久しい。廃業によって古い技術を消滅させるのではなく、発想を転換して新規事業に転用できれば、可能性はぐっと広がる。 一方、大手メーカーの強みは、ヒット商品を生み続け、長年、市場をリードしてきた総合力である。
大企業とスタートアップによる「オープンイノベーション」という言葉は定着しているが、若いスタートアップに限らず、宝のような技術が中小企業には眠っている。お互いが補完し合えば、経済にダイナミズムが生まれる。 共同開発という道を切り開いたのは、社会的な要因も大きいだろう。
政府は女性の社会進出を促しているが、ストレスや労働環境の問題が解決したわけではない。女性社員数が多く、ストレスを抱える傾向が強い業種・業態はある。ミツフジによると、「利用者は、スマートフォンのアプリを通じてストレス状況を0~100の数値で把握したり、心拍などの生体情報をアルゴリズム解析して、ストレス指数・体調指数が取得可能です」と言う。
自分の体を守るには自分の健康状態を把握するしかない。
共同開発に協力した前述の航空会社Peach Aviation は、実は会社側が客室乗務員に着用を指示したのではない。客室乗務員たちが「着用してみたい」と手を挙げて協力したのだ。
IoTウェアラブルは自分の生体データを把握することで、より良い未来を導くことになる。
IoTのブラジャーと、ベンチャー型事業承継。どちらも可能性を大きく広げるという意味で、新しい時代の到来を象徴するものになるかもしれない。