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2019.04.21 12:00

パリから「日本の農業」を応援する スターシェフ御用達の食材店


そうさらりと説明してくれた田中さんだが、とはいっても、それらの「良いもの」を持ち込んだ先がいきなり美食の街パリである。しかし、そこにも田中さんなりの戦略があった。

まずは持ち込んだ食材をパリのトップシェフたちに知ってもらい、そのクオリティをしっかりと評価してもらう。もしそこで好評価を得られれば、今度は「パリのシェフ御用達」ということで、日本でもその食材をアピールすることができる。「パリ」という言葉に弱い日本の消費者に向けては、このうえない宣伝文句となり、日本でもその商品の売り上げ増が期待できるというわけだ。

農作物や加工品の需要が増せば、農家もその恩恵を受けることになる。パソナ農援隊のパリ進出が、まわりまわって日本の農家の利益に繋がることになるのだ。



さらに田中さんは、農業以外の分野への波及効果にも期待している。

「パリに持ち込む食材を通して、『美味しい』だけじゃなく、その先にあるストーリー、つまり産地の歴史や文化、気候風土といった地域の魅力もトータルに発信したいのです。そして、最終的には目指すのは、インバウンドの観光にも結びつけること。食は何よりのPR材料になりますからね。モノは日本からヨーロッパへ、人はヨーロッパから日本へ。この循環をつくりたいのです」

定着しなければ意味がない

実際、自分たちの商品をパリに売り込みたいという自治体や会社はたくさんある。僕もこれまでに、日本酒だったり食材だったりと、様々な人たちがパリ進出を目指す事例を見てきた。そのための手段として、彼らの多くが行なったのが、現地でイベントを開くことである。

以前、パリで行われた日本食に関するイベントで通訳を担当したフランス人に話を聞いたことがある。彼によると、そのイベント自体は大盛況のうちに終わったという。しかし、せっかくその場では盛り上がっても、その後に参加企業からフランスの顧客に対してのフォローがなく、結局その商品はパリに定着しなかったそうだ。

拠点は日本に置いて、パリでイベントをやるだけでは、なかなかに現地の要望をキャッチアップすることは難しい。そこで真価を発揮するのが、「Le Salon du Chef」の存在なのだ。パリに常駐しているからこそできる現地の顧客のフォローは、日本の食材を扱いたいレストランや商社にとって、また日本の生産者にとっても心強い存在となる。



「Le Salon du Chef」では、現在、パリだけでも200店舗ほどの顧客であるレストランにサンプルを持参し、食材やお酒、工芸品なども紹介している。取引先は多岐に渡り、フレンチや和食の星付きレストランをはじめ、最近ではビストロやパティスリーなどのカジュアルな店も顧客となっているそうだ。
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文=鍵和田昇

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