世界遺産の地が育む「伝統のワイン」と「これからのワイン」

ポルトガル北部のポルト、ドウロ渓谷に広がるブドウ畑

ポルトガル北部にあるポルトは、ユネスコの世界遺産に登録されている、世界でも1、2を争う美しいワイン産地だ。ドウロ渓谷に広がるブドウ畑には、他のワイン産地では見ることができないダイナミックさがある。美しい景色に加えて、食事、文化、そして地元の人々が訪れる観光客を魅了している。

伝統的なポートワインが有名だが、現在では辛口の赤・白・ロゼからスパークリングまで様々なワインを生産している。特に辛口のスティル・ワインは今後に期待が高まるなど、注目したいワイン産地だ。

世界を代表する甘口の酒精強化ワインとその歴史

ポートワインは、世界を代表する甘口の酒精強化ワイン。ワインの発酵途中でアルコール度数77%のブランデーを加えて酵母の働きを止めることにより、糖分が残り甘口のワインになる。ブランデーを加えるため、通常のワインよりアルコール度数が高い。高い糖分と高アルコールにより長期間の保存が可能となるが、これはポートワイン誕生の背景と関係がある。

その歴史は、17世紀まで遡る。当時、フランスと戦争していたイギリスでは、フランスワインの輸入が禁止された。すると、イギリスのワイン商人たちはポルトガルに目を向けた。ワインは長い船旅により運ばれ、長期間の保管が可能となる高アルコールで糖分が高いポートワインが重宝されたのだ。

ドウロ渓谷は、約2千年前からブドウ栽培が行われていたと言われる歴史ある土地。ポートワインの生産者の多くは、海に近く穏やかな気候のヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアの街に拠点を構え、ワインの熟成を行っている。ブドウ畑は、ドウロ川に沿って内陸奥深く、スペインとの国境まで広がり、内陸に入るほど暑く乾燥した気候になる。


ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアから見る対岸のポルトの街。ドウロ川には観覧船が航行し、船からもその美しい景色を楽しむことができる


食前にも、食後にも

ポートワインは、大きく3種類に分かれる。白ブドウから作った「ホワイトポート」、黒ブドウから作った濃い紫色の「ルビーポート」、そして、黒ブドウから作るワインを酸化熟成することにより琥珀色になった「トゥニーポート」だ。

ホワイトポートは、アプリコットやシトラス系果実のフルーティーな口当たりで、食前酒として楽しめる。ホワイトポートをトニック・ウォーターで割ったカクテルは、暑い夏にぴったりだ。ルビーポートやトゥニーポートは、デザートに合わせるなど食後酒にも良い。ルビーポートとチョコレートは、王道の組み合わせだ。

ルビーポートの頂点は、最高品質のブドウから良作年にだけ作られる「ヴィンテージ・ポート」。1年半〜3年と、比較的短い樽での熟成期間を経て瓶詰めされる。リッチな味わいでタンニンが強いフルボディのワインは、瓶内で長期熟成されてから本領を発揮する。実際、世界のワインのなかでも最も長生きするワインの一つなので、もし自分の誕生年のヴィンテージ・ポルトを発見したら、試してみても面白い。

一方でトゥニーポートは、長いもので30年、40年といった長期間の樽での酸化熟成により、水分が蒸発し色素も抜け、非常に凝縮した琥珀色のワインとなる。ヘーゼルナッツ、干しぶどう、トフィーのようなフレーバーとまろやかな口当たりで、心地よい甘さが後を引く。単体でも、ナッツやチーズ、デザートと合わせても楽しめる。20年以上の熟成を経たものがお勧めだ。


1900年のポートワインも試飲したが、シロップのように凝縮した素晴らしい味わいだった
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文=島悠里

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