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世界漫遊の放送作家が旅番組の舞台裏を教えます

料理人、秋吉雄一朗

「公邸料理人」という職業がある。外務省のホームページによれば、「公邸料理人とは、調理師としての免許を有する者又は相当期間にわたって料理人としての職歴を有する者で、在外公館長の公邸等における公的会食業務に従事する資格があると外務大臣が認めた者をいいます」とある。

簡単に言えば、在外日本大使の公邸に仕える料理人のことだ。日本で生活していると、なかなかに聞き及ばない職業ではあるが、料理人業界ではひとつのステータスであり、また目指すべきひとつの肩書きなのかもしれない。

そんな「公邸料理人」として、パリで活躍した人物がいる。秋吉雄一朗さんだ。秋吉さんは1984年、福岡県飯塚市生まれ。18歳で京都のミシュラン3つ星に輝く料亭「瓢亭」で修業を始め、別館料理長、本館調理副主任を歴任。2013年11月、OECD大使に請われて渡仏し、2016年8月まで、パリの大使公邸で、多くの要人を相手にその腕を振るった。

「公邸料理人」の主な業務は、大使が公邸で接待する際の食事のもてなしにある。外国の要人といっても、われわれと同じ人間だ。美味しいものを食べればそれだけ話が弾むということは想像に難くない。

外務省のホームページにも、「在外公館は任国政府等との交渉・情報収集・人脈形成等の外交活動の拠点であり、在外公館長の公邸において任国政財官界等の有力者、各国外交団等を招待して会食等の機会を設けることは、最も有効な外交手段の一つです。この際に高品質の料理を提供すべく、在外公館長は通常、専任の料理人を公邸料理人として雇用し帯同しています」とある。美味しい食事は万国共通、人の心を豊かにしてくれるのだ。

JETROが認めるパリの日本料理店は20軒

パリでの輝かしいキャリアを引っさげて日本へ戻って来た秋吉さんだが、現在は自身のお店の開店準備中だ。どこに開くのかというと、パリである。なるほど、パリで公邸料理人をやっていたのだし、そりゃそうだよな、と思う気持ちもあるが、多少なりともパリの食事情を知っている身としては、日本で店を開いたほうが食材の選択肢も多いし、美味しい料理を提供できそうな気もする。

そんな疑問を秋吉さんに投げかけると、こんな答えが返ってきた。

「もちろん、パリでは日本と同じ食材は揃いません。とはいっても、パリは諸外国のなかでも、日本料理をつくりやすい環境にあります。現地にもいい食材がありますし。確かに、魚は種類が少ないのですが、ジビエなどの肉や現地の野菜も豊富にありますので、それらを使って季節感を出すこともできるのです」

ご存知の通り、昨今は、海外でも日本食が広まっている。現在、パリには「日本料理を提供する店」として認識されている店が750店舗ほどあるそうだ。しかし、そのなかでもJETROが認める和食店はわずか20店舗ほどだという。その他、大多数の「日本料理を提供する店」は、和食が世界遺産に登録されたことによる需要を当てにした外国人が経営していたりして、いわゆる「なんちゃって日本料理」を提供している店なのだ。

問題は、パリを訪れる外国の人々が、そんな「なんちゃって日本料理」の店に、喜んで足を運ぶ現実にある。「日本食がブーム」なんていえば聞こえはいいけれど、実際のところ、外国人のほとんどは本物の日本料理を知らないのだ。

ドイツの有名サッカー選手が、中国に遠征で訪れた際、楽しみにしていることとして「寿司を食べること」などと言い放って、ちょっとした問題になったこともあるが、要はそういうことである。日本料理と中国料理の区別さえつかない外国人だってたくさんいるのだ。それもプロのサッカー選手ほどの高給取りであってもだ。

そんな現状に危機感を覚えているのが、秋吉さんのような日本料理の料理人である。「日本料理の解釈がずれてしまって、本質が伝わっていない」ことを危惧しているのだ。秋吉さんは、「本当の日本料理を伝えたいという自らの強い使命感」で、日本ではなく、あえてパリでの出店を目指している。

文=鍵和田 昇

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