祝辞の冒頭で触れたのは、2018年に相次いで発覚した医学部入試での男女差別。また、東大入学者の女性比率が「2割の壁」を超えないことや、4年制大学進学率に男女差があることも説明。この差は「成績の差」ではなく、「『息子は大学まで、娘は短大まで』でよいと考える親の性差別の結果」だと指摘した。
性差別、東大も例外ではない
さらに上野さんは、「東大に頑張って進学した男女学生を待っているのは、どんな環境でしょうか」と問いかけた。「他大学との合コンで東大の男子学生はもてます。東大の女子学生からはこんな話を聞きました。『キミ、どこの大学?『と訊かれたら、『東京、の、大学...』と答えるのだそうです」と述べ、女子学生が「東大生」であることに誇りを持てない現実への疑問を訴えかけた。
「男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがある」と指摘した上で、「かわいい」という価値について次のように話した。
「『かわいい』とはどんな価値でしょうか?愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです」
また、東大には「他大学の女子のみ参加できる」男子サークルがあることや、歴代総長に女性がいない現実を説明し、社会で横行する「隠れた性差別」は、東大も例外ではないと指摘した。
大学で学ぶ「価値」とは
難関を突破し、選抜されて東大に集まった新入生。彼らに向けて、上野さんは以下のようにエールを送った。
「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」
祝辞の終盤には次のように新入生を激励し、今後の挑戦に期待した。
「あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です」
「東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています」