「え! カツオって漁に日にちがかかるものなんだ。しかも往復2日?」
ということは、獲った日の翌日に水揚げされて、それから豊洲市場に運ばれて、その翌日の朝に市場で買ったカツオが出回るとすると、お魚屋さんやスーパーで買ったり、お店で食べるころには、水揚げから3~4日経っているということになります。
そう、“ヒモドリ”は、日戻りのこと。カツオってたしか鮮度の落ちるのが早い魚だから、断然、日戻りがいいに決まっています。日戻りのカツオの期待値が急上昇。きっと高級料亭や高級レストランで出てくるカツオは、日戻りに違いないと察しました。
ご主人はさらに、「それも“ナワ”でとれたものだよ!」と笑顔で言ったのですが、私がまた硬い笑顔で「なゎ」となっていると気さく解説をしてくれました。
「鮮魚として流通するカツオの8~9割が一本釣りされたものだから、“ナワ”はあんまり知られていないね。一本釣りは釣り上げられたときに船の甲板へ叩きつけられてしまうから、実は魚体へのダメージが大きくて、鮮度の低下にも影響がある。“ナワ”は“ひき縄漁”のことで、船を走らせながら疑似餌で釣る。カツオがかかったら縄を手繰り寄せて捕まえるんだ」
ひき縄漁は一本釣りや巻き網漁のようにたくさんはとれませんが、一尾一尾、捕まえたらその場で血抜き・冷却していくので、非常に鮮度の良い状態で保てるのだそう。
つまり“日戻り”の“ナワ”でとれたカツオとは、鮮度抜群で魚体の状態は最上級ということ。そしてこのカツオを、もちろん、お刺身で味わいます。
ああ、すごい歯ごたえ。なんて美味しいの。薬味をあまり乗せなくても、臭みなんて全くない。フレッシュなカツオの香りと旨み。こんなの初めて。これが今朝まで生きていたカツオ、そして釣ったその場で血抜きしたカツオの風味。
タタキにしてもおいしいけれど、タタキは、鮮度落ちが早く臭みが出やすいカツオに、臭み消しや殺菌・防腐効果を狙った料理法なのだそう。気さくなご主人は日戻りのナワでとれたカツオを「切りながら食べたくなっちゃうよ!」とウキウキしながら捌いていくのでした。
さて冒頭でも触れたように、勝浦は「近海」の「初ガツオ」の水揚げ量がとても多いのです。多くは一本釣りですが、それでも近海のカツオなら鮮度は良好。運が良ければ、日戻りのナワでとれたカツオに出会えるかもしれません。
勝浦の初ガツオは3月から5月ころまで。ぜひ旬の勝浦で、初ガツオの本領を体験してみてください。
連載 : 夢のたべもの
過去記事はこちら>>