イノベーション・アワードから生まれた最近のヒットは「焼きキットカット」だ。キットカットをオーブンで数分焼くと、チョコレートが変性してビスケットのようになるという現場から上がってきたアイデア。これだけ聞いてもピンとこないが、このアイデアのすごさを高岡が解説する。
「チョコレートは冬場に需要が大きい半面、気温が高いと溶けて指に付くため夏場は売り上げが下がります。これをトースターで焼くとビスケットのようになって溶けなくなる。これは『夏場にチョコレートが売れない』という僕らが諦めていた問題に対する答えになっている」
さらに「焼きキットカット」は、コスト面でも優れていたという。「これを工場で作ろうとすると設備投資が10億円以上必要になるけど、そこまでかけてやる商品じゃない。消費者が自宅でやってれるのであれば、それがかからない。提案した本人は、そこまで気づいていなかったかもしれないけれど、磨くと光るアイデアだったんです」
職位や経験によって、気づくことのできる範囲が違う。だから高岡は従業員からの提案を選ぶ役員たちに、「アイデアをさらに磨いて提案する」ことを求める。
「役員が、『今年はいいアイデアなくて』って言うんです。選ぶ側の役員たちも、選んだアイデアを自分で磨いて大きくして僕に発表することになっています。部下が持ってきたものをそのまま僕に提案するなんて許しません。下だけなく、上も育たなくてはいけませんから」
高岡は「焼きキットカット」をテレビCMで訴求。イノベーション・アワードから生まれたアイディアのヒットを後押しした。
スイス本社で毎月3回講演する大事な話
「ネスレのグローバルでも、イノベーション・アワードの講演依頼がひっきりなしにあるんです」
「外からの視点」「多様性がなくなり同質化する」のは、日本企業特有の課題ではない。実際、高岡は月に3回、スイスにある本社の研修センターでイノベーション・アワードの講演をし、中国でもイノベーションをテーマにした研修を実施し、日本での成功事例を共有している。
ネスレの西アフリカは、日本の事例に習ってイノベーション・アワードを導入。選ばれたアイデアには1万ドルを支給する。
「ネスレ日本が100万円を支給しているから、賞金も日本に倣ったようですが、西アフリカの物価で1万ドルってすごいでしょう?」と、高岡は笑う。西アフリカだけでなく、ネスレでは3カ国でイノベーション・アワードの導入が進んでいる。
「組織を同質化させない工夫、イノベーションが生まれる組織づくりの努力は、役員や社長の仕事だと思っています」