2人がタッグを組んで進めていこうとしていた矢先、スポーツ庁が「スポーツビジネスイノベーション推進事業」に取り組むという話が太田の耳に入る。
これは“スポーツ市場規模拡大に向けて、スポーツ競技のマーケティング活動を外部の人材や知見を受け入れながら進めていく”という主旨の事業。
二人の目指す世界と重なった。太田は事業の受託先として立候補し、山野とともに描いていた構想を鈴木大地長官に話した。そして2018年1月、日本フェンシング協会が「スポーツビジネスイノベーション推進事業」を受託。協業先にアソビューが選ばれ、フェンシング競技人口拡大に向けた取り組みを本格的に進めていくことになったのだ。
初回の体験プログラムに「試合」も組み込んだワケ
「asoview!」で提供するフェンシング体験プログラムを作るにあたり、山野は太田にあることを提案した。
山野:「練習だけでなく試合もプログラムに盛り込もうと思う」と。
私もサッカーをしていたからよくわかるんですが、「まずはパスから」、「パスができるようになったらリフティング」、「その後ミニゲームを経て、やっと11対11の試合ができる」というように、スポーツって基礎練習やステップを重んじるじゃないですか。
それも大事だけど、やっていて一番楽しいのは試合なんですよね。今回は、続けることが前提の教室ではなく、まずは一度体験してもらうためのプログラムを作るので、基礎が完璧じゃなくても参加者には試合を楽しんでもらえるようにしたいと思ったんです。それに、試合をする中で自然と競技のルールも覚えられるじゃないですか。
太田:初めてフェンシングに触れてから2時間で試合ができるなんて、面白いですよね。手ぶらで来てもらえる一方で、一般的な試合と同じルールで、同じ用具を使って試合ができるってアイデアは純粋にいいなと思いましたね。
そうして完成した体験プログラムは2019年2月現在、東京都内にある2か所の教室で提供され、「asoview!」から予約することができる。提携先の教室は、今後も拡大予定だ。
太田:最近は、子どもたちにリアルなフェンシングを見てもらいたくて、選手と一緒に都内や千葉県の小学校を回っています。興味を持ってフェンシングを始めてくれる子がいるかもしれないし、2020年の東京オリンピックでいくつかの競技の中からフェンシング観戦を選んでくれる子が増えるかもしれないじゃないですか。
日本フェンシング協会の会長に就任以来、新しいチャレンジを重ねている太田だが、すべては競技人口増加というゴールに向けてのものなのだ。
最終目標、それはスポーツの世界にイノベーションを起こすこと
休日の過ごし方の選択肢にフェンシング体験が少しずつ根付いていけば、自然と競技人口は拡大するはずだ。また、フェンシング観戦者も増えていくだろう。しかし、山野と太田は、今回の取り組みの先にフェンシング競技の発展を見据えているだけではない。スポーツ界全体にイノベーションを起こそうとしているのだ。
山野:このタッグで何かをし続けていくことよりも、今回の取り組みが成功事例となって波及効果を生むことの方が大事かなと。これまでも「asoview!」で、アーチェリーやボルダリングなどの体験プログラムを提供してきたけれど、教室単位との提携でした。今回、協会と一緒に進められたことは大きな成果なので、こうした取り組みを広げていきたいです。
太田:私たちが「スポーツビジネスイノベーション事業」の第一号案件なので、二号、三号案件に繋げなければと思っています。サーフィン、スキー、ボルダリングあたりはレジャーと相性も良さそうだし、これから別の競技連盟や協会ともプログラムを開発してほしいですね。
一方で、フェンシングの入口は広げてもらったので、これからは私たち日本フェンシング協会が奥行きを掘り下げる番。体験プログラムを経てフェンシングを始める人が増えるような、道筋づくりをしていきたいです。