競技から産業への転換を、共に。フェンシング太田雄貴とアソビューの協働

公益社団法人日本フェンシング協会の太田雄貴氏とアソビュー代表の山野智久氏

0.2%。
 
これは、とあるアンケートで「フェンシング競技を体験したことがある」と答えた人の割合だ。ちなみに、同じ対象に「フェンシング競技の存在を知っているか」と聞いたところ、「はい」と答えたのは99.4%にも上ったのに、である。
 
アンケート対象は、日本最大級のレジャー・遊び・体験予約サイト「asoview!(アソビュー)」の会員。つまり、基本的には好奇心旺盛で、休日はアクティブに過ごすことが多い層であるはずの彼らでさえフェンシング体験には縁遠いのだ。
 
「体験のハードルが高い。もっとカジュアルにしなければ競技人口は増えない」
 
そんな危機感から、公益社団法人日本フェンシング協会の太田雄貴氏とアソビュー代表の山野智久氏がタッグを組んだ。2人は、これまで敷居の高かったフェンシングの「カジュアル化」をどのようにして実現するのだろうか。

北京の銀メダルで認知は獲得。ただ、体験までの障壁が高かった

2人が出会ったのは、2年前の「G1サミット2017」。政治・経済・ビジネス・科学技術・文化など、さまざまな分野のリーダーたちが集い、議論する場である。その場では挨拶を交わす程度だったが、共通の友人であるヤフー常務執行役員コマースカンパニー長の小澤隆生氏を通じ、しだいにいろいろな話をするようになった。

太田:2018年の春ごろですかね、山野さんに相談したんです。「どうやったら、フェンシングの競技人口を増やせますかね?」と。認知度はかなり高まったけれど、競技人口は一向に増えなくて。

2008年北京オリンピックでは銀メダル、2015年世界選手権では世界一となり、フェンシング競技を日本国民に浸透させた張本人である太田はそう振り返る。ちなみに2008年、出発前は2人だった報道陣は帰国後、200人を超えたという。

現在、フェンシングの競技人口は6千人。10年間で5万人にすることが太田の掲げる目標だが、道のりはあきらかに遠い。ちなみに、なぜ5万人なのかというと、国際大会へ選手を派遣しながら協会を運営するために必要なボリュームだからだ。



太田:競技人口が増えない原因は何だろうと考えていてわかったのが、体験の入口が圧倒的に足りていないことです。どこに行けばフェンシングができるのか、そもそもフェンシングは体験できるものなのか、ということがわかりづらかった。

日本フェンシング協会のHPにはクラブ名・住所・電話番号が書かれたページがあるだけ。情報がこれだけでは、体験してみたいって気持ちにはなれないし、体験のハードルは高いまま。誰もがカジュアルにフェンシングを体験できるような環境を作れないかなと思っていました。それで山野さんに話したところ、「できるよ、やろう!」と言ってもらって、準備を進めることになったんです。

山野:太田さんは、フェンシングの競技人口を増やすためには新しいことにチャレンジしなければという強い意志を持っていました。「asoview!」のアセットを活用して、余暇レジャーの選択肢にフェンシングが入るための支援ができるのではないかと考えました。

太田:フェンシングはヨーロッパ中世の騎士道で、「身を守る」「名誉を守る」ことを目的として磨かれ、発達してきた剣技です。だから、神聖なものであるべきと思っている方もいます。そうした側面を守りつつも、入口を広げるためには「レジャー」としてのフックを用意すべきなのかなと思ったんです。
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文=倉本祐美加 写真=小田駿一

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