これからは、この2つのうち、ちょうど中間にある考え方が求められます。それが「Abduction(アブダクション)」です。少数のデータから帰納法で特徴の仮説を出し、その仮説に基づいて小さな演繹法で他の異なるグループに転用することで、仮説を検証する。そうやって変化の時代にあった高速なループをまわすことが大事なのです。
そして、演繹法ばかりをやってきた我々にはAbductionを鍛えるために、まずは小規模な帰納法を訓練する必要があるのです。
まずは帰納法の訓練から始めよう
身近にできる簡単な帰納法の訓練は、メモをすることです。例えば映画を見たとき、気になったことをメモするとします。言葉は目の前で見た現象より、情報量が落ち、抽象化されます。つまり、膨大な情報量の中から、一つのポイントにまとめるという点では、メモ自体が帰納法的な行為なのです。
メモは、一番小さな帰納法であり、抽象化です。そして、帰納的な物の考え方が身についていき、物事を抽象化できるようになると、今度は抽象化したことを別のアイデアへ転用することができます。メモから書かれた、抽象化されたものを他のアイデアへ転用する行為が、Abduction的な物の考え方になります。
このことをよりわかりやすく紹介した書籍が、現在17万部の大ヒットとなっている前田裕二さんの「メモの魔力」であり、同著が大幅に売れている理由だと思います。つまり「メモの魔力」とは、Abductionなんだと思います。
Abduction的な物の考え方とは、本来ならただのゴミ箱のアルミ蓋でしかないものを、今、敵が棍棒で突いてきそうな瞬間に、とっさに盾として転用し、即座に防御する一瞬の思考なのです。しかしこの思考をものにするには、まず私たち日本人は、物事を瞬時に抽象化する力を身につけなければなりません。そのためにまずは小さな帰納法である「メモ」が効果的ということなのです。
これは脳みその訓練なので、例えば手帳の本日の日付の空欄に、今日1日の日記をキャッチコピーにしてまとめる習慣をつけるなど、些細なことから始めるといいです。まずは、帰納的な物の考え方に慣れていくことが大事だと思います。
連載 : 働き方革命最前線 ─ポストAI時代のワークスタイル
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