今年に入って出版されたハリス上院議員の半生を書いた本も、アマゾンのベストセラーリストの上位にランクされている。アメリカで政治家が本を出すときは、次の選挙で大きな勝負に出るときか、政治の世界を去っていくときの最後の「金儲け」としてか、どちらかだ。
黒人公民権運動の指導者でノーベル賞受賞者のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を記念する祝日の1月21日、自らの大統領選への出馬をツイッターで表明すると、ABC放送にも登場して、「わたしは戦う政治家だ!」と、インタビュー中、「ファイト」を10回以上繰り返した。このハリス上院議員が来年の大統領選挙での、民主党の最有力候補とみられている。
当年とって54歳、移民二世の元検事であるハリス上院議員は、ジャマイカ出身のスタンフォード大学教授を父親に、インド出身の癌の研究者を母親に持つ才女だ。父母が出会ったバークレー大学の近隣にずっと住み、カリフォルニア州選出の上院議員をつとめている。
彼女は、弁護士免許を取得すると、地方検事を皮切りに検察畑をずっと歩み、2003年にはサンフランシスコ市の地方検事局長になる。州によって違うが、アメリカでは検事局長は選挙で選ぶケースが多く、同州も同様で、ここから司法職につきながら選挙の経験を積む。2010年にはカリフォルニア州の司法長官に当選し、おととしの2017年までその職に就いていた。
フォード、クリントン、オバマなど、弁護士が議員や知事に転じ、大統領になるケースはアメリカではとても多いが、同じ法曹界でも、検察一本やりの大統領候補は珍しい。つい去年までは、ほぼ全国区では無名だった1年生議員の彼女が、いきなり次の大統領選挙の最有力候補者というのは、今のアメリカの政治の混迷をよく表している。
なにより「攻撃力」が魅力
トランプ政権の行政シャットダウンの交渉でも見られたように、ナンシー・ペロシ(下院議長、民主党下院院内総務)のような従来型の上品な政治家は、結局トランプを理論でどれだけ論破しようとも、市民の視線では負けているように映る。
中間選挙で民主党は下院で圧勝したのに、この状態だ。なのでトランプを選挙で打ち負かすとなると、強烈なディベート力、それも攻撃的なディベート力が必要だと民主党は考えている。
その点、この筋金入りの「攻撃型ディベイター」はすごい。彼女の「攻撃力」がよく市民に浸透したのは、トランプ人事の指名を受けた相手(証人)への公聴会だ。議会は委員会をもち、民主党と共和党の議員から成り立っている。野党である民主党は政権を批判する立場にあるが、ハリスの質問攻めは見ているだけでもハラハラする。
例のブレット・カバノー最高裁判事への公聴会や、メキシコとの国境でグアテマラ人の子供が亡くなった事件でキルステン・ニールセン国土安全保障長官への証人喚問などは、今でもユーチューブでその様子が見られるが、極めて激しい。