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2019.02.13 16:00

なぜ高級車のボンネットは長いのか クルマのデザインを考える 

1905年の「モーターハンサムキャブ」。ハンサムキャブとは馬で引く馬車であり、タクシーとして使用さ れた。キャビンに客を乗せ、運転手は車両後方上部で運転するスタイルは馬車のそれを踏襲。7〜9馬力と言われるボクスホール製のこの車両は、馬車から自動車への過渡期そのものを表している。

Forbes JAPANで人気の自動車をテーマにした連載「Forbes CAR」全18記事を連日配信します。1記事目を飾るのは、クリエイティブ コミュニケーター/デザイナーの根津孝太によるクルマのデザイン考察です。

自動車の形を決定づけるにはさまざまな要因がある。多様化するモビリティが必要とする新たなデザインとは。

クリエイティブ コミュニケーター/デザイナーの根津孝太氏をインタビュー。
クリエイティブ コミュニケーター/デザイナーの根津孝太です。トヨタで自動車のデザインや企画をしていましたが、2005年に独立してからはznug design(ツナグデザイン)という自分の会社で、モビリティに軸足を置きながら、乗り物からロボットまで、さまざまなプロジェクトに関わらせていただいています。

今回は4つの切り口でクルマのデザインについて考えたいということで、僕なりに思うことをお話しさせていただきます。

4つの切り口とは、「ラグジュアリー」「電動化」「自動運転」、そして「多様性」。昨今の自動車産業でよく言われる「CASE(=コネクティッド・オートノマス・シェアード(サービス)・エレクトリック)」を踏まえつつ、高級車というカテゴリーを設けたそうです。それぞれについてデザインはどう関わっているのでしょう。

まず「ラグジュアリー」ですが、今回、このテーマが含まれていることが実に面白くて。というのも、いわゆる「コモディティ化する自動車」の対極にあるのが「高級車」と「スポーツカー」の2つで、この2つは半ば不可分なところもある。多くのスポーツカーは上質な内外装を持っていることが多いですし、また、大衆車に走行性能で劣る(ひらたく言えば、遅い)高級車というのは成り立たないからです。

そして、高級車は「MaaS(=モビリティ・アズ・ア・サービス)」という昨今のトレンドへのアンチテーゼでもあります。つまり、絶対的な所有の喜びです。モビリティのあり方が変わるなかで、古来変わらない価値観を守っているのが高級車たちです。

これを踏まえて外観上の特徴として挙げられる点はいくつかありますが、まずはエンジン。良いエンジンが載っていることをいかに表すか。大きなエンジンを縦置きにした長いボンネットは典型例ですね。昨今のファミリーカーでは、機構部分をなるべくコンパクトに設計しますが、セダンタイプの大きなボディという記号を守り続けること、長いボンネットであることには美学があるわけです。

現代では一般的に良くないこととされるボディの重さも、燃費の良さなどと引き換えに、フラットな乗り心地を提供します。重い、大きなボディを、大きなエンジンで余裕たっぷりに走らせる。これが高級車のフォーマットであるとすると、実は昨今人気のSUVもその図式に合っていますね。

高級車はこのフォーマットを守ることに存在意義を持ちつつ、いろいろ悩みながら変わってもいます。軽量化(効率化)、電動化や自動運転も見据えながら、いかにこれまで作り上げてきた古き良き車の価値観を守り、進化させ、受け継いでいくのか。その姿勢を示すことが、高級車そのものの存在意義になりつつあると思います。

次のテーマの「電動化」では、多くの人が急激なデザインの変化についていけないことがポイントです。エンジンがなく、インホイールのモーターで駆動するからといって、突然ボンネットはなくせない。

TOYOTA i-unit (2005)
根津さんがコンセプト開発リーダーを努め、未来のモビリティとして愛・地球博で発表。「Amazonの倉庫で人知れず働いている電動パレットのようなものが、EVや自動運転の未来の姿を先取りしているかもしれません」(根津さん)。


電気自動車(EV)のひとつの大きな特徴は、例えばテスラのように、自動車業界ではないプレイヤーが多く参入していることですが、彼らですら既存のフォーマットに則ってデザインしているのは、新しいことを考える努力が足りないのではなく、お客さんがついていけない一面もあるはずです。

かつて、馬車から自動車に変化したとき、しばらくその形は馬車を模していました。馬がいないのに御者の席があり、そこにハンドルがついていたのです。自動車が現在のような形を獲得し、アーキタイプ(ひな形)と呼べるものができるまで、時間がかかったわけです。同様に、今はまだEVのアーキタイプができていないのではないでしょうか。個人的には電動でないと絶対に成立しないデザインというものがあってもいいのではと思います。

そしてEVでは街のデザインもクルマの形状に影響します。電池のインフラをどう考えるかということです。充電ステーションの数や充電時間、それに伴い人がどれくらいEVを使いたくなるか。

例えば、台湾の電動スクーターGogoroの場合、街には、充電ではなく「バッテリー交換」のためのステーションがあるんです。それにより圧倒的に簡便な乗り物として機能し始める。車両単独で自己完結して考えるか、少し広げて街のシステムとして考えるのかでも電気自動車のあり方は変わってきます。
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文=青山鼓

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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