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2018.12.20 07:00

竹中平蔵、安宅和人、石川善樹、朝倉祐介、井上浄らが説く、2050年の世界


2050年版「人間の3大欲求」とは?

安宅:石川さんは、いかがですか。
 
石川:井上さんは「テクノロジーの観点」から未来を考えていますが、僕は「欲望の観点」から未来を考えています。
 
民俗学者・宮本常一の著書『忘れられた日本人』では、明治時代の人たちがどのような欲求を持っていたかが語られています。明治時代の人たちの欲求は性欲・食欲・睡眠欲の3つが主でした。今の時代、性欲・食欲・睡眠欲で悩みを抱える人はほとんどいないと思います。人間の根源的な欲求は、この100年くらいで大きく変わったわけです。



僕は来たる2050年に向けて、人間の3大欲求もアップデートされると思っています。これからは「孤独・退屈・長生きによる漠然とした不安」が注目されるでしょう。これらへの対処が、予防医学の大きなテーマになるはずです。
 
竹中:みなさまが挙げている課題は、まさにいまの人々が直面している困難ではないでしょうか。「孤独・退屈・不安」なんて、まさにいまの若者が悩んでいることですよね。

これからの30年は、すでに明らかになっている「当たり前」を実現できるかどうかの分かれ目になると思います。バブル末期の頃から日本では、自由に働ける・雇える環境が必要だと言われていましたが、この課題はいまだに解決されていません。

昔から課題は明確に分かっていたのに、日本のワイドショーでは関係のないことばかりが報じられてきた。これまでの30年間は、課題の解決が先送りにばかりされてきた期間だったんです。
 
日本は制度も整っており、人々がゴシップを楽しむ余裕をもてる環境もある。喜ばしいことですが、一方でこれまで不便と言われてきたアジア・アフリカは「リープ・フロッギング(蛙飛び)」で急速に発展している。豊かな環境が続く保証は全くないし、うかうかしていると世界に差をつけられてしまうでしょう。
 
そうした現状に立ち向かっているのが、スタートアップです。スマートシティ化など、ここにいる多くの人が「当たり前」に認識している課題をきちんと実現できるかどうか。その分かれ目となるのが、これからの30年です。
 
仕事と遊びの境界線はなくなっていく

谷本:続いて、産業についてお聞きしたいです。これからはどんなテクノロジー、あるいはビジネスが必要になると思いますか。
 
井上:人間の統合解析によって、一定の健康状態が保証されたとき「人が何をやりたくなるのか?」を考えています。そのひとつとして、お金を支払ってでも働きたくなる人が増加するのではないか、と予想しているんです。
 
石川:昔は体を動かしてお金を貰っていたのに、いまは体を動かすためにジムなどにお金を払っているのと同じですね。
 
井上:お金の価値感が変わって来ています。なぜお金を支払ってでも働きたくなる人が増えるかというと、個人の健康データを調べた結果、ある習慣などのおかげで健康でいられるという要素が出てきたとします。するとその人は、その情報をあえてオープンにはしないと思うんです。

僕がつくりたいのは、このときに情報を公開するためのプラットフォームです。いち早く他の人のためにデータを外に出した人が得をするようになれば、みんながさらに自分の健康や体験に興味をもって仮説検証を始める。これが僕の目指す「全員研究者の時代」です。


 
健康のために使うお金が減り、個々人ごとに情報をストックするようになったとき、きっと人は面白い体験をするためにお金を払うようになるでしょう。将来的には、それが仕事と呼ばれるようになるのではないでしょうか。

石川:あらゆるジャンルで、競争の基準が変わると思っています。例えば、ユーチューブが動画の視聴時間を指標にしていることからもわかるように、いまは「Race for attention(注目を集める競争)」の時代です。

この基準はあまり適切ではありません。iPhoneにいつもどれだけスクリーンを見ているのか確認できる「Screen Time」の機能が追加されたのは、デジタルデバイスの過度な利用が人の健康に悪影響もたらすからです。

ウェブの競争基準も、これを踏襲するようになるでしょう。つまり、どれだけ利用されたかではなく、そのサービスでどれだけ良い時間を過ごせたかどうかが基準になるのではないでしょうか。いずれはこうした指標が高い精度で測定できるようになるはずです。
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文=野口直希 写真=小田駿一

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