ネットフリックスで最高人事責任者を務めたパティ・マッコードの書籍、「Netflixの最強人事戦略」に書かれた言葉だ。同社が、その“行動”と“規律”をまとめたスライド「Culture Deck」が公開されると、急成長を支えた強固なカルチャーが大きな話題を呼んだ。
華々しいビジョンを掲げるだけでなく、達成に向けた行動指針の共有が必要という認識は、Netflix以外にも広がっている。「Spotify(スポティファイ)」や「Zappos(ザッポス)」、「GitHub(ギットハブ)」といった名だたるテック企業も「Culture Deck」を作成し、インターネット上で公開している。
こうした“トレンド”を他社に先駆け実践してきたのが、企業向けにマーケティングプラットフォームを提供する「HubSpot(ハブスポット)」だ。同社は、2013年にパティ・マッコードを顧問に迎え、「カルチャーコード」を元に社内の文化形成に取り組んできた。
「カルチャーはHubSpotの事業を加速させるために不可欠だった」と語るのは、HubSpot COOのJ・D・シャーマン。事業成果に直結するカルチャーの土台となった128枚のスライドはどのように誕生したのか。そしていかに組織づくりに活かされてきたのか。来日した同氏に話を伺った。
行動指針が従業員の自発的な行動と自治を促す
──カルチャーコードを7年前に作成した理由は何だったのでしょうか?
当初は新しい社員のオンボーディング用の資料でした。HubSpotには率直なフィードバックを行うなど、大企業から入社した人が戸惑うようなカルチャーが多く存在します。そのカルチャーを前向きに捉えてもらうための資料でした。
また、社内の“自治”を促したいという意図もあります。組織が小さい間は言葉がなくともカルチャーを共有できていましたが、組織が拡大するとそうはいかない。かといって、事細かにマニュアルで縛るのはHubSpotのボトムアップなカルチャーに反します。
行動の“指針”であれば従業員が自分で判断する余白もあるし、大きく外れた行動を未然に防ぐガードレールになると考えました。
──どのようなプロセスを経て、今のアウトプットになったのでしょうか?
私たちにとってカルチャーコードはソフトウェアの“コード”と同じ。定期的に点検し、アップデートされていくものであり、今のアウトプットも完成形ではないんです。現在も月に一度は経営陣が集まり、丸1日かけて「カルチャーが組織の現状と乖離していないか」を議論します。
当初は、会議の度にスライドの数が増えていましたが、最近では徐々に縮小しています。無駄が削り取られ、コアになる部分がより明確になってきました。