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ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信

孫 正義(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

ベンチャー企業の集まるシリコンバレーでは、IPO(株式公開=上場)に加えて、最近は「Masa-PO」という企業の資本戦略があるという。何のことかと思ったら、これは孫正義の目に適い、ソフトバンクの投資を受けられる基準に達することを指すのだと、10月13日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じていた。

やや奇を衒ったような言い方に聞こえたのだが、WSJがIT系の記事を書くとき、日本人では孫がダントツのいちばんで引用されることから、あながち大げさな言い方とも思えない。今回の記事では、米国ベンチャー企業の「上場を遅らせるという戦略」という逆説的なタイトルをつけ、それをサポートしているのが孫だと紹介している。

2兆円の投資で時間の猶予を

記事で扱われたのは、「WeWork」というオフィススペースのリースをする会社だが、日本を含む世界各地に進出し、上場をめざして急成長を遂げている。従来型のオフィススペースを賃貸契約するのではコストに合わなかったり、成長に機動的に対応できないという賃借人(企業)のために、リースというより事務所共有を提供する柔軟な賃貸ビジネスモデルだ。賃借人である会員同士の交流ができるように、「仕切り」のないシェアリングで借りる方法もあるなど、安く提供するため、あるいは単なる賃貸ではないと訴求するための工夫に富んでいる。

しかし、このビジネスモデルは昔からある。そのためライバルに打ち勝つにはユニークさを打ち出さねばならない。急いで上場して資金を集めようとする同社に対して、孫は約2兆円の投資をすることで時間の猶予を与え、成長戦略を書き直しなさいと言い渡したと報道されている。

ベンチャー企業は、成長の過程で、大きな資金負担の山を超えなければならない。融資や債券発行で調達できるのはほんの一部であり、大規模な開発やスピードを求められる事業では、上場をすることで巨額の資金調達をすることが必定だ。そして上場を一度でも計画すると、それをあてこんでさまざまなプランも進行するので、それを遅らせることは経営者の更迭にさえつながりかねない一大事だ。

実は、「成長戦略が手ぬるい!」と檄を飛ばし、彼らの経験からコーチしてくれるメンターは、半分はありがたい存在なのだが、もう半分は単なる迷惑な存在だ。ぬるかろうが甘かろうが、上場できなければ沈没してしまうという危機感の前には、金策に関係がないお説教はどうでもいいのだ。

ところが、孫の場合は、説教をする代わりに資金を出して時間を買ってあげる。そればかりか、WeWorkの初期投資家たちの株を買い上げさえして、うるさいことを言う人間を追い出し、当面必要な資金よりはるかに大きい金を投資したうえで、「手ぬるい!」と叱る。つまり口だけでなく金も出す、そこがIPOならぬMasa-POなのだとWSJは解説している。

文=長野慶太

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