テクノロジー

2018.11.21 12:30

テクノロジーは「失望による死」を止められるのか?


社会資本とテクノロジー

津川:フェイスブックなどのSNSが生まれて、人と人とのつながり方が大きく変わりました。カワチ教授は、人間関係といった社会資本が人々の健康に大きな影響があることを明らかにしましたが、SNSは社会資本の格差を縮める効果があるかもしれないですね。

カワチ:ペンシルベニア大学の実験の例があります。糖尿病患者に対して、賞金など経済的なインセンティブを与える場合と、患者同士のソーシャルサポートをした場合で、どちらがより血糖値の管理に効果があったのかを比較しました。

効果が高かったのは、圧倒的に後者の方です。お金をかけずに社会資本を使って介入できる方法がスケールアップできれば、健康格差の縮小につなげられるでしょう。

津川:私が注目しているのは「医療の質」の格差です。アメリカの病院では、ガイドラインに沿った適切な医療を受けられる可能性が約50%だったという有名な研究結果があります。性別や年齢、出身医学部など、様々な要因で、提供されている医療の質にはばらつきがあります。 

私は、医師の意思決定のプロセスを調べています。例えば、女性の医師の方は診療のガイドラインを守る比率が高く、患者の話をじっくりと聞き、患者の死亡率も低い。患者が話をしている時に医師がどれくらいじっくりと話を聞くか見てみると、女性医師は3分間話を聞いてから遮ったのに対して、男性医師は47秒で遮ったという研究があります。医師の性別によって診療パターンの違いがあるようです。

カワチ:行動経済学によって、医療提供者の行動も変えられるかもしれないですね。

津川:そう考えられるようになってきました。医師の行動を変えるのは非常に困難です。でも医師が適切な医療行為をしなければ、新しい医学的知識や科学技術が開発されても、患者には届きません。医者の思考プロセスを理解するために、AIや情報技術は有用です。

技術革新は止められません。ニューヨークのマウントサイナイ病院は、病院にあるAI学習に欠かせない「豊富な医療データ」を活用し、巨大IT企業の一歩先を行っています。技術でいかに社会を良くするのかを考えることが重要だと思います。


イチロー・カワチ◎1961年、東京都生まれ。12歳でニュージーランドに移住し、オタゴ大学医学部卒、博士号取得。社会疫学の世界的権威。社会資本と健康格差の関係性を明らかにした。2008年からハーバード公衆衛生大学院社会・行動科学学部長。Social Science & Medicine編集長。

津川友介◎1980年、神奈川県生まれ。東北大学医学部卒業後、内科医として勤務。世界銀行勤務を経て、ハーバード大学で医療政策学の博士号取得。著作に『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』『「原因と結果」の経済学』など。2017年からUCLA医学部助教授。

イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事