例えば市場調査会社、フロスト&サリバンは、2014年に6億3300万ドルであった「AI×ヘルスケア」の世界市場規模が、2020年までに約10倍の66億6200万ドル(約8600億円)にまで膨れ上がると指摘している。年平均成長率にすると約40%という高成長である。
今後、ヘルスケアデータ、つまり人間の健康に関する情報の集積・解析・利用は爆発的に増えていくと考えられている。米調査会社IDCは2020年に、2015年比で約15倍の医療データが世に生まれると指摘している。
一方、IBMは人間ひとりが一生の間に生み出すヘルスケアデータが100万ギガバイトに達すると分析している。いわゆる医療分野での「データビックバン」が起こりつつあるというわけだが、その膨大なデータを統合・解析し、新たな価値を創出することがAIに強く期待されているのだ。
もう少し詳細に言うならば、ここでいうデータには、「病院診療記録」「保険請求情報」「学会論文」、ウェアラブル端末を通じて収集された「生体データ」「遺伝子データ」「ユーザーの状態情報」「ソーシャルデータ」などが含まれる。それらをAIで統合・分析することにより、医療関係者の意思決定支援、ヘルスケアプロセスの効率化、新製品・サービスの開発などに結びつけるというのが、「AI×ヘルスケア」の主な問題設定となる。
手術後の死亡率が50%減少した
「AI×ヘルスケア」が発展することで、医療の現場である病院では、さまざまな変化が起こることに間違いないだろう。なかでも医療の質向上には期待せざるをえない。
AIが人間の医者よりも高い精度で病気の診断を下すという話は、いまや珍しいものではなくなった。例えば「IBM Watson for Oncology」は、一定の条件はあるものの、平均的なガン診断率の精度が96%に達しているという。また、米ベンチャー企業のEnliticが開発した肺がん診断システムは、放射線検診および医者の診断より精度が50%以上高いという報道もある。
今まさにこの瞬間にも、人工知能は人間をはるかに凌駕するスピードで学習を続けているが、今後さらに、短時間かつ誤診率が低い優れた診断を下してくれるAI医療システムが増え続けていくはずだ。