起業のきっかけとなった、学生時代の出会い
──起業家の素養の1つ目である「ビジョン構築力」はどのように身につけられたのでしょうか?
父親が37歳という若さで他界した経験があり、その原体験から、人生は終わるものであるということを早くから理解し、学生の頃から「人生とは何なのか」を考えていました。
大学生の中には、「なんとなく」会社を選んで就職する人もいるものだと感じていましたが、私の場合はどうしても自分の人生を「なんとなく」選択することはできませんでした。
そのため、「人生において、会社に入って働くこととは、どういうことか」を多くの経営者に聞くために、「ハッピーカンパニープロジェクト」という学生団体をつくりました。世の中の幸せそうに経営している経営者にインタビューを申し込み、直接話を聞いて回りました。
──そこではどのような気づきがあったのでしょうか?
幸せそうにしている経営者の話に共通していたのは、「いかにビジネスモデルが優れているか」といった話を一切しないこと。むしろ、「良い会社とは何か」「良い人生とは何か」という答えのない問いを、当たり前のように考え続けている人が多かったんです。
「良い会社は社内の雰囲気がいい」といったことや、「良い人生は外の何かを手に入れることではなくて、自分がどんな状態でも幸せだと感じられるようになることだ」など。
おっしゃっていたことは全て定性的なものでしたが、人生で大切なことをたくさん教えていただきました。その体験が起業を志すきっかけになりました。
「考えすぎるな。感じろ」
──経営者のお話から、良い会社や良い人生の共通項を見出していかれたのですね。
そうですね。それでいうと、「良い経営者」の共通項にも気づきがありました。それは「感じられること」です。
例えば、飲食系チェーン店の2代目社長にインタビューさせていただいた時のことです。その社長が徹底してロジカルに分析した上で店舗の椅子の高さを調整していたところ、創業者がふらっとやってきて、「感覚的にもうちょっと椅子を高くしてほしい」とおっしゃったそうです。その通りに変えてみたら、売上が一気に上がったというエピソードをうかがいました。
この事例からわかることは、創業者には「ロジックでは説明できない何か」が見えていたということです。その何かを「感じられるようになること」が優れた経営者の能力なのだと気づきました。
──たしかに、一般的な経営者はロジックの方を大事にされるかと思います。
そうですね。私は「感じなくなること」を起業家の陥りがちな罠としてよく挙げています。ロジカルに説明できないことをできなくなる状態です。
事業をやる際には常に「”なんか”これをやりたい。」という直感が先に来るべきです。最初の「ハッ」とするひらめきは、ロジックからは生まれないからです。直感的に「感じるもの」がある上で、それを説明するロジックが必要になってくると考えています。
──思考の順序が大切なのですね。
はい。まさにそれを表した言葉として、チャップリンの有名なスピーチで「We think too much and feel too little.(考えすぎだ。感じろ)」というものがあります。
物事の真実というのは、必ず2つ答えがあって、その両方を理解してバランスさせられる人が強い。会社経営もそうで、ロジカルさはもちろん必要だけれど、「感じること」、すなわちインスピレーションやクリエイティブがあってこそ、インパクトある事業が生み出せると思います。
アカツキの仕事はまさに「人々の心にタッチして開く」ことだと思っているので、頭でっかちにロジックばかり使うのではなくて、エモーショナルな部分を「感じること」が重要だと考えています。