実際、リモートワーク経験者たちによって鍛え上げられたTrelloはいたって使いやすい。タスクの数だけ「カード」を作り、進行状況に合わせてリストを動かす。タスクを終えたら、カードを「進行中」から「完了」のリストに移すだけ。グーグルドライブやBox、Dropbox、OneDriveなどのストレージサービスからファイルをアップロードしたり、チェックリストや期限を追加したりすることも可能だ。しかも、世界中の人とリアルタイムで協力できる。
「他社の製品と違ってTrelloがユニークな点は“壁”がないことです。例えば、私はニューヨークにいながら、東京にいる同僚とリアルタイムで仕事ができます」と、プロダクト開発の責任者で、同社のグループ・プロダクト・マネジャーを務めるジャスティン・ギャラガーは語る。
コラボレーションツールの中にはサブドメインを作り、そこへ他のメンバーを招待する必要があるものもある。例えば、Slackの場合は項目ごとにチャンネルを立てる。“小さなネットワーク”が乱立することもありえるが、その点、Trelloは言わば“一つの大きなネットワーク”である。認識を共有できるからこそ、同社の社員は比較的容易にリモートワークができるのだ。
「ユーザーには一貫したコラボレーション経験をしてほしいと考えています。つまり、他の人と一緒に取り組んでいる場合は『あなたと私が見ているものは同じだ』という感覚ですね」(ギャラガー)
ビジネスから日常生活まで色々
原理的にはかんばん方式と同じだけに、Trelloは仕事上のコラボレーションに使いやすい。例えば、「飛行機の大衆化」を謳うたって水陸両用軽飛行機を開発する米航空機メーカーのICONエアクラフトでは、工場のベルトコンベアごとにiPadを置き、Trelloを使って製造工程を確認。マーケティングからセールスに至るまで、すべてTrelloで管理しているという。
「業界を問わず、プロセスを整理するのにTrelloは有効」と語るのはTrelloのエバンジェリストで、ビジネス部門を統括する、クリスティン・ハーバクトだ。
「保育園でもフォーチュン500に入るような企業でも、すべき業務というのがあります。確かに、子供を寝かしつけたり、おもちゃを殺菌したりする保育園と、ふつうの会社とでは業務内容は異なるかもしれません。それでも効率的に働き、同僚や顧客とコミュニケーションを図る必要がある点は、どの仕事も本質的には同じです」
職種に関係なく、企業で使われている方法に新卒や転職者向けの「やることリスト」がある。人事関連の事務手続きなどをTrelloでまとめることで、煩雑な作業も手際よくこなすことができる。全員で共有できるから、会議のアジェンダを立てたりする際も便利だ。近年は特に、マーケティング関係者がソーシャルメディア・プランニングで使うことが多い。部署を問わずに使えるのが利点だが、むしろ「部署の垣根を超えて使える点こそが評価されているのではないか」とハーバクトは指摘する。
「私たちの顧客には多国籍企業も多数いますが、時差があると、会議のセッティングやアジェンダの設定も簡単ではありません。同じ会社でも事実上、“リモートワーク”しているようなものですから」
複数の部署をまたいで同じメンバーと繰り返しコラボレーションする必要がある場合は、ユーザーやボードをグループ化できる「チーム」機能が役に立つ。毎回、一緒に働いているメンバーをボードに招待する手間を省けるうえ、作業内容を共有できる。また、「パワーアップ」機能を使えば自分のTrelloボードをカスタマイズすることも可能だ。前出のクラウドストレージサービスのほか、SalesforceやZendeskなどと連携させることで、タスク管理をしながら効率よく仕事ができるだろう。
タスク管理ツールだけにビジネスのみならず、買い物リストや旅行計画などの日常生活でも使える。小説を書く際のプロット設計に用いたり、子供が自分で物語展開を選べる児童書に仕立てたりする人もいる。作品の制作過程を整理するために使う芸術家も。使い方は色々ある。