AIにはできない「働き方」
仕事にやりがいがあり、職場は働きやすく、会社は従業員のウェルビーイング(心身の健康)を重視している──なんて素晴らしい会社だろう。だがそれがどのようにして業績の拡大につながるのか。言い換えるなら、なぜボックスは多くの顧客から支持されるのだろうか。
COO(最高執行責任者)のステファニー・カルロは、オーストラリア人らしい人懐っこさを漂わせながら、その疑問に答えてくれた。IBMやシスコシステムズ、アップルなどで25年にわたってキャリアを築いてきた敏腕セールスウーマンだ。
ステファニー・カルロは2017年8月にCOOに就任。グローバルセールス、マーケティング、カスタマーサクセスなどを統括する
「ボックスがほかのIT企業と違うのは、『顧客中心主義』であるところです。もちろん私がこれまで勤めてきた会社は、どこも顧客を大切にしています。でもボックスは文字通り、すべての業務の中心に顧客がいる。たとえばセールスだけでなく、カスタマーサクセス、コンサルティング、ビリング、財務、法務……すべてのチームが顧客にフォーカスし、顧客と接点をもっています。つまり社員全員が顧客の成功とウェルビーイングに重要な役割を果たしているのです」
カルロ自身、毎週2〜3回、顧客に直接会って、要望や改善点などをヒアリングしているという。
彼女が昨年ボックスに加入してから気づいた他のIT企業との違いは、顧客との向き合い方だけではない。
「クラウド時代に生まれた新しい会社だから、レガシー(過去の)テクノロジーに足を引っ張られていません。たとえば来客入館管理はEnvoy、オンライン会議はZoom、といったふうにすべての業務プロセスが『ベスト・オブ・ブリード』で成り立っている。こんなのは、ほかの会社では見たことがありません。会議が終わる10分前になると出席者にアラートを出して、時間内にアウトプットを出すように促すツールもあるんですよ」
バックオフィスの機能がAIなどによってどんどん自動化される昨今。ボックスもそうした仕事環境のデジタル化を促進するツールを開発し、「働き方」改革の旗振り役を担っている。同社では、アレクサ(アマゾンのAIアシスタント)を使って、会議室の予約や、チェックイン・チェックアウトもできるという。
ということは、セールスのような人的資本のかかる仕事も、やがて「効率化」の名のもとに自動化されるのだろうか。そんな疑問をぶつけると、カルロは目を輝かせながら、きっぱり否定した。
「私たちの仕事は、顧客のビジネスを変革すること。そのためには顧客とダイレクトな関係を築き、彼らの課題や要望を理解することが不可欠。私たちは事務的な処理をしているのではなく、ビジネスのあらゆる側面でテクノロジーをどのように活用できるかを顧客と一緒に考えています。テクノロジーは定型的な作業を効率化し、有益なインサイトを与えてくれるという面では非常に有用ですが、最終的に重要な決定を下すのは人間なのです」
AIを使って人間を活かす。それが「売れる」組織作りのカギと言えそうだ。