「近い将来、魚は海でなく、陸でとれるようになる」──シリコンバレー発の漁業革命

フィンレス・フーズ共同創業者のブライアン・ワイアワス(左)とマイク・セルデンは、マサチューセッツ大学アマースト校時代からの友人だ。

食とテクノロジーを融合した「フードテック」は、今シリコンバレーで最も勢いのある領域の一つだ。中でも、サンフランシスコ近郊のエメリービルに拠点を構える2016年創業のスタートアップ「Finless Foods(フィンレス・フーズ)」は、魚の細胞を培養した人工肉「クリーンミート」を開発し、注目されている。彼らの狙いとは何か。そして未来の食はどうなるのか。9月はじめ、本社ラボを訪ね、共同創業者兼CEOのマイク・セルデンに話を聞いた。

──まず、どのような問題意識があって魚肉のスタートアップを立ち上げられたのでしょうか?

クリーンミートにはいろんな可能性があって、人によって問題意識はさまざまです。

僕の場合はおもに2つあって、一つは環境問題、もう一つは動物福祉の観点です。

環境問題について言うと、現在の漁業は、水産資源をほとんど獲り尽くしてしまいました。第二次大戦後に日本で発展した商業漁業は、いまや世界中へと広がりました。商業漁業が導入された海域では、2年以内にほぼすべての水産資源が消滅します。このままだと、海から完全に魚がいなくなるのは時間の問題です。

動物福祉については、動物を殺すのと殺さないのとでは、どちらの方がよいでしょうか。もし選べるなら、大半の人は殺さない方を選ぶと思います。われわれはその選択肢を消費者に与えたいのです。

──牛や豚などの家畜を殺すのを「残酷だ」と感じる消費者がいるのは理解できますが、魚を殺すことをためらう人は少ないのでは?

たしかに牛などと違って、魚は無表情なので感情移入するのが難しい。でも多くの魚にも「感情」があり、仲間と複雑な意思疎通をしていることが、さまざまな研究で明らかになっています。たとえばロブスターは、色や形、パターンなどを区別できるという報告もあります。

──人々が魚を食べるのをやめればよいのでしょうか?

それはあくまで個人による問題解決であって、おそらくうまくいかないと思います。われわれの解決法はサプライチェーン(供給システム)を変えること。つまり、海にいる魚を食べる理由そのものをなくすことです。

たとえば、みんながヴィーガン(絶対菜食主義者)になれば、さきほど指摘した環境問題や動物福祉の問題はいっきに解決します。でも残念ながらヴィーガニズムの運動は広がっているとは言えません。道徳的な運動が社会を変えるのはとても難しいのです。

一方でこんな例を考えてみましょう。かつて欧米の国々はクジラを獲って、その脂分をランプの灯油として使っていました。ところが石油や電気などの代替エネルギーが開発されると、クジラ漁はいっきに衰退していきました。鯨油に対する需要そのものがなくなったからです。

このようにサプライチェーンが変わることで、社会は大きく変わる。そしてサプライチェーンを変えられるのは、道徳的な運動ではなく、新しいテクノロジーなのです。


フィンレス・フーズは今年4月に350万ドル(約4億円)のシード資金を調達し、まもなくR&Dのフェーズを終える予定だ。

──ではフィンレス・フーズの取り組みについて教えてください。

われわれは現在、クロマグロのクリーンミート(細胞由来の肉)を開発しています。現在市場で売られているマグロとまったく同等の品質のものを、同じ価格帯か、より安い値段で近い将来、提供したいと思っています。

なぜクロマグロなのかというと、高品質で値段の高い魚として認知されているからです。高級魚のクリーンミートを提供することで、まずは消費者にわれわれの取り組みについて知ってもらいたいと考えています。いずれはサケやティラピアなど一般的な魚も手掛ける予定です。
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文・写真 = 増谷康

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