例えば、「発電に使えるタコ」「ぽかぽかする傘」。こんな言葉に耳なじみのある方は皆無だろう。それも当然。これらは現実世界には存在しない「不思議な言葉」なのだから。
対して、「消せるボールペン」「羽根のない扇風機」だと、どうだろう。一見すると同じ「不思議な言葉」なのだけれど、そう、これらは現実にあるパイロットの「フリクション」、ダイソンの「羽根のない扇風機」のことである。
しかし、ひと昔前に同じ言葉を聞いていたらどう思っただろうか。きっと、「発電に使えるタコ」「ぽかぽかする傘」と同じように、そんなものは存在しない、ありえない、で片づけてしまったのではないだろうか。
ぼくは普段、ショートショート(以下、SS)という小説を専門に書くSS作家として活動している。SSとは簡単にいうと短くて不思議な物語のことなのだが、その執筆活動と同時に力を入れていることがある。それが、SSの書き方講座だ。
90分程度の時間内でアイデア発想から作品完成、さらには発表までも行ってしまうというもので、メソッドを用いれば、小学生でも大人でも、作文や読書が苦手であろうとなかろうと、誰でも小説が書けるようになっている。これまで延べ1万人以上に教えてきた。
その講座を企業向けにアレンジして開催しているワークショップが、「ショートショート発想法」というものだ。
参加者にはまず、メソッドを使って、自社に関連する現実にはありえない「不思議な言葉」をつくってもらう。そしてそこから発想をどんどん広げていって物語に仕上げてもらうわけなのだが、具体例を出してみよう。例えば自動車メーカーだとした場合。まさにいま、手元でメソッドを使ってみると「金がかかるタイヤ」という言葉が誕生した。
そうすると、次に考えるのが、それはどんなものなのかということ。空想なので正解はなく自由自在に考えてもらう。例えば、どうして「金がかかる」のか。
そのタイヤを使ったら、燃費が悪くなってガソリン代がかかるから? 宝石がちりばめられていて、そもそもの値段が高いから? タイヤにコインを入れないと動き出さない仕組みだったり? などなど、いろんな切り口があるだろう。ここでは仮に、「タイヤにコインを入れないと動かない仕組みになっている」という方向を採用してみることにする。