燃料電池車は、車内のタンクに圧縮されて貯蔵される「水素」と大気中の「酸素」を「燃料電池」というテクノロジーで反応させて、電気をつくり、モーターを動かす。走行時には「水」を出すが、「二酸化炭素」は排出しない。
電気自動車メーカーであるテスラのイーロン・マスク会長兼CEOは、「燃料電池車に勝ち目はない」という発言を繰り返している。水から電気分解で水素を取り出すのはエネルギープロセスとして効率が悪く、さらに超低温や高圧の水素を貯蔵したり、輸送したりする技術も確立できていないというのがその理由だ。
しかし、逆に言えば、電気分解ではない革新的な方法や再生可能エネルギーで水素を製造でき、輸送や貯蔵に問題がなくなれば、水素エネルギーによる燃料電池車は大きな可能性を持つということだ。水素には、電気とは異なり、大容量のエネルギーを貯蔵できるという大きなメリットがある。
こうした背景のなかで、水素を効率的に製造、液化し、しかも安全に輸送して自動車や発電に利用しようとする世界初のサプライチェーンのプロジェクトが、日本の神戸市で始まろうとしている。
カギは「水素ステーション」にあり
2017年4月、神戸市兵庫区で「神戸七宮水素ステーション」が営業を始めた。トヨタとホンダが製造する燃料電池車に水素を充填できる施設だ。小規模なガソリンスタンドと変わらない300平方メートルというコンパクトさは、都市型ステーションのモデルと言ってもよい。
燃料電池車の充填時間は約3分とガソリンと変わらず、電気自動車の30分とは一線を画す。それでも水素ステーションの整備が思うように進まなかったのは、ガソリンスタンドに比べて初期投資が大きく、燃料電池車自体が普及しなければ売上が伸びないなどの、ビジネスリスクが大きいからだ。
燃料電池車の価格は、補助制度を利用しても500万円を超え、これが下がらなければ販売もなかなか伸びそうにない。ステーション整備とは「鶏が先か、卵が先か」の関係にあり、一足飛びでの普及にはつながらない。
そんな中、トヨタ、ホンダ、岩谷産業など11社は、2018年2月、水素ステーションの整備拡大のために「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM ジェイハイム)」を設立した。国の補助金などを活用し、同社がステーションを整備、保有することで、ステーションの運営事業者のリスクを小さくする仕組みがつくられたのだ。2021年までに、国内約80カ所でのステーション整備をめざしている。