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2018.09.26 07:30

神戸市が挑む「水素」のサプライチェーンプロジェクト


神戸市ではもうひとつ、水素エネルギーをめぐり、太平洋を縦断する壮大な実証事業もスタートした。オーストラリアで褐炭(かったん)から水素を取り出し、マイナス253度の液化水素の状態にして日本まで専用船で運ぶ。神戸空港島で陸揚げされた水素が、日本最大規模のタンクで貯蔵されるというものだ。

褐炭は、不純物が多く品質の悪い石炭で、これまでほとんど使われてこなかった。褐炭から水素を大量に製造し、輸送できれば、一気に効率化が実現する。液化水素の運搬船を建造するのは川崎重工。同社は、種子島宇宙センターで日本の基幹ロケットH-ⅡAに注入する液化水素の貯蔵で実績がある。現在、運搬船の建造や受入基地の建設を進めており、2020年に稼働する計画だ。

水素から電気と熱を取り出し、市立病院やコンベンションセンターなどへ供給する事業も動き始めた。

神戸のポートアイランドに、大林組と川崎重工が、水素を燃料とするガスタービンプラントを整備し、2018年4月には、水素燃料100%による市街地への電力供給を世界で初めて達成した。まだ小規模であるが、電力では一般家庭の2600世帯分、熱は4000世帯分をカバーする。


水素を燃料とするガスタービンプラントの完成記念式典の様子

主役争いではなく役割分担で

水素をめぐるテクノロジーの進歩は目まぐるしい。中国は電気自動車大国を目指していると言われるが、2017年9月、上海市は「燃料電池車発展計画」を発表している。燃料電池トラック車500台を製造し、水素ステーションを5から10カ所整備する計画だ。中国が燃料電池車にも力を入れることになるなら、「普及にとっては大きなチャンスだ」とトヨタ自動車の関係者も話す。

神戸市環境局で水素エネルギーを担当する林千景は、各国から要人の視察が相次ぐなか、世界的な水素への注目の高まりを肌で感じている。「電気自動車は自宅で充電できるのでちょっとした街乗りには向いているが、トラックや商用車など1日の走行距離が長くなると燃料電池車が現実的だ」と林は言う。

今後も神戸市は燃料電池車の環境整備へのサポートを惜しまないが、イーロン・マスクのように電気自動車か燃料電池車かの二者択一ではなく、それぞれの長所短所を活かした役割分担が、いまのところの答えではないだろうか。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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