ふるさと納税は、2015年の法改正で確定申告が不要になると利用者が増え、2014年度に341億円だった寄付額は過去3年で10倍となった。しかし、制度利用者の関心は返礼品に集中。それに応えるかのように、地場産品と言いにくい「大手メーカーの缶ビール」や「寄付額の50%に相当する旅行ギフト券」を贈る自治体が問題視されている。
ところが、この制度を活用して、地域の民間プロジェクトへの資金集めに成功した自治体が現れた。地方から日本を変えようというプロジェクトのクラウドファンデイングに集まった金額は2カ月で2675万円。“返礼品競争”とは一線を画す、この新たな動きを紹介したい。
“日本一アクセスが良い田舎”から
ビジネスチャット・サービスを提供する日本発のスタートアップ企業、「ChatWork(チャットワーク)」。アメリカのシリコンバレーにも進出し、グーグルやマイクロソフトといった世界的IT企業と競っている会社だが、同社の共同創業者であり元CEOの山本敏行さんは、国内で明日の起業家たちを育成する新たなプロジェクトを開始した。
神戸の六甲山北側に位置する山に囲まれた谷上エリア、新幹線「のぞみ号」が停車する新神戸駅からわずか8分というこの地を、山本さんは「日本一アクセスが良い田舎」と呼び、ここを核として、全国から参加者を募り、挑戦と変化を起こそうという人たちのコミュニティづくり「谷上プロジェクト」を始めたのだ。
第1弾として、起業家育成とコミュニティ形成のためにコラボレーションスペース「.me(ドットミー)」を谷上駅構内に整備しようと、18年3月1日からクラウドファンディングで資金を集め始めた。驚くべきことに、目標額の1500万円を1カ月で達成、5月1日までの2カ月で2675万円を集めた。
コラボレーションスペース「.me(ドットミー)」で開催された大学生によるビジネスプラン発表会
実は、この資金集めは「ふるさと納税」を活用している。寄附者が支払ったお金は、全額がいったん神戸市への寄附金として処理される。その後、クラウドファンディング会社への手数料を除いた残りの金額が、谷上プロジェクトへと流れる。これによって、クラウドファンディングに応じた人は「ふるさと納税」の減税メリットを受けることができる。そして、ここには返礼品という概念は存在しない。