だがそれだけでは、アメフトの選手として有望なのかどうかわからない。ルールがなかなか頭に入らないマイケルは、練習でしょっちゅうコーチに叱られ、見かねた長男のSJが「特訓」するようなありさまだ。
リー・アンが直感力を発揮するのは、車の免許を取ったマイケルが事故を起こした時、咄嗟に助手席のSJをかばったことから、彼の保護本能=防御力がアメフトで使えると思いつく点である。
練習の最中に割り込んで、コーチそっちのけでマイケルはじめ複数の選手にテキパキとアドバイスする姿は、傍から見れば空気を読まないお節介おばさん。だが、人の視線など意に介さない彼女の真剣さが、人を動かし状況を動かしていく。
いつも静かな自信に溢れている
終盤、マイケルがテューイ夫妻の善意を疑うような出来事が起こり、貧民街に戻った彼は昔つるんだ少年たちの執拗な挑発に乗ってしまうが、マイケルを探して乗り込んできたリー・アンは、黒人の悪ガキをビビらせる威嚇で貫禄を見せつける。
これがもし白人男性だったら、この場面はちょっと厭なしこりが残るかもしれない。あからさまに上位の白人と下位の黒人という構図になるからだ。少年たちに揶揄われる女性の反撃だからこそ、バランスが保たれている。
こうしたリー・アンの言動は、比較的リッチな階層の教養ある女性の一典型と言えるだろう。
成功体験を積み重ねてきているので、基本的に押しは強い。しかしわからないことはてらいなく相手に質問し、まっすぐ目を見て相手の言葉を受け止める。切り替えが早く、浪費家ではないがお金を使うべき時は思い切って使い、一旦こうと決めたら行動に無駄がない。余計なおしゃべりはしないが、かと言って冷たくもなく、いつも静かな自信に溢れている。
一朝一夕には身に付けられない文化資本とそこそこの財力を持っていることを本人も十分自覚しており、それを「困っている人を助けること」に使うことを誇りと考えている、そんな真面目な女性。
もしかしたら、何となく苦手だなと思っていた女性の中に、似たタイプが思い当たる人はいるのではないだろうか。
連載 : シネマの女は最後に微笑む
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