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シネマの女は最後に微笑む

映画『しあわせの隠れ場所』の主演、サンドラ・ブロック(Photo by Stephen Lovekin/Getty Images)

大学アメフト、ボクシング、女子体操と、今年は春以降スポーツ界でのパワハラ問題が相次いで発覚しているが、そんな中で大坂なおみ選手の全米オープンテニスでの初優勝は、久々に明るいニュースだった。

スターが誕生すると、そのファミリーヒストリーがこぞって報道され、話題になる。若くして偉業を成し遂げた人が、どんな環境、どんな親の元で育ってきたかを知りたいと思うのは人情だろう。

ただ記者会見で、ある記者が「何人ですか?」と質問したのは、「日本人です」という答えが欲しかったのかもしれないが、デリカシーを欠いたふるまいだった。それに、「私は私」と返した大坂選手の聡明さが印象に残る。

さて今回は、スポーツが関連した作品として、サンドラ・ブロック主演の『しあわせの隠れ場所』(ジョン・リー・ハンコック監督、2009年)を取り上げよう。ちょっと背中が痒くなるような邦題だが、原題は、アメリカンフットボールのクォーターバックの死角になり易いサイドを意味する『The Blind Side』。

同名ノンフィクションの映画化に際して、後にアメフト選手として成功する少年マイケル・オアーの里親となる、リー・アン・テューイをヒロインにしている。サンドラ・ブロックはこの役で、第82回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた他、数々の映画祭の主演女優賞を獲得した。


(左)サンドラ・ブロック、(右)リー・アン・テューイ本人

舞台はテネシー州メンフィス。貧困な黒人の家庭に生まれ、コカイン中毒の母から幼少期に引き離され、あちこちを転々とする生活を送っていたマイケルは、あるアメフトコーチに見出されて圧倒的に白人の多いその高校に入学する。しかし授業にはまったくついていけず、居場所もなく、雨の夜に彷徨っているところを裕福で親切なテューイ一家に救われ、中でもとりわけリー・アンの尽力によって、優秀な選手へと成長していく‥‥というドラマである。

物語の語りはテンポ良く、笑いが散りばめられ、人種差別問題に対する配慮とバランス感覚も欠かさない、よくできたエンターティメントと言えよう。その分、作品としての物足りなさは若干あるが、それを補って余りあるのがヒロイン、リー・アンのキャラクターだ。

困っている人を見たら助けること─

彼女が登場するのは、高校に入学したマイケルの孤独が一通り描かれた後。中年になっても維持しているスタイルを白のシャネルで固めて颯爽と歩くさまは、いかにも富裕層の白人女性らしい。

学生時代はチアリーダーとして活躍し、同じ大学出身の夫はチェーンレストランのオーナーとして成功、自身はインテリア関係の仕事をもつ。シックでゴージャスな自宅で、夫婦仲は円満、年頃の長女と小生意気な幼い長男は可愛いくて、夫共々これといった欠点が見当たらない。その上、共和党支持者で全米ライフル協会の会員だ。

どこから見ても、一点の曇りもない「強者」。こうした輪郭だけで言うと、今ひとつ共感ポイントが見つけにくいという人もいるだろう。だが物語の進行に伴って、私たちは単なるセレブマダムの枠に留まらないリー・アンという女性に魅了されていく。

文=大野左紀子

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