アドビに入社した社員たちは、時間を無駄にすることはせず、すぐさま在学中と同じ再び勉強の日々を開始する。「多くの人は、卒業したらそれで終わりだと考えがち。学位はスタートでしかない」とモリスは語る。
新入社員は、「Accelerate Adobe Life(アドビ生活を加速させる)」と呼ばれるプログラムによって、同社の一員となっていく。このプログラムには、アドビが年次成績評価の代わりに行っている継続的な評価制度などについての一連の説明会や、無意識の偏見に気付き対処する方法を学ぶ「Breaking Bias(偏見を打ち破る)」といった研修が含まれる。
新入社員はその後、オンデマンドの学習コースやリーダーシップ開発コースを利用することで、自主的に成長を続けられる。また、年間1万ドル(約100万円)の教育費負担制度も用意されている。「私たちは、個人が機会を追求できる環境を推進している」とモリス。「学びは生涯続くものだ」
アドビの新入社員にとって、キャリア開発面での福利厚生と同じぐらい大切なのが、社会貢献の機会だ。「自分自身を超えた何かをして、社会的なインパクトをもたらすこと。これこそが今日の新入社員が望むことだ」モリスは言う。
アドビでは、社会奉仕は企業文化の中核をなしている。2017年には従業員の63%が社会奉仕活動に参加。さらに、会社が寄付金などを同額支出するマッチング拠出制度は45%の従業員が利用し、世界中の慈善事業に計600万ドル(約7億円)以上を寄付した。
従業員が他人の幸福に貢献する一方、アドビは従業員の面倒をしっかりと見ている。同社では、全社規模での夏季・冬季休暇、勤続年数に応じて申請できる長期休暇、寛大な育児・家族休暇が用意されているほか、不妊治療や代理出産、養子縁組にかかる費用の還付や、児童手当として年間1200ドル(約13万円)の給付も行っている。
また、よりインクルーシブ(包摂的)な環境作りのため、障害者、性的少数者(LGBTQ)、女性、退役軍人、そしてさまざまな人種の従業員を支援する7つの社内ネットワークを設立した。
「人々を引き付け、会社にとどまらせるには、タダ飯を与えるだけで十分、という考え方に、私は賛成しない」とモリス。「人々が心地よくいられるような職場体験が必要だ」
現代の新卒生は以前と比べ、教育、インパクト、バランスに価値を見出しているのかもしれないが、結局のところ会社に求めることはそれほど変わらないのではないかとモリスは言う。「誰もが勝ち組で働きたいと思っている。一番の学校に行きたがるのと何ら変わらない。当社は成長を続ける企業であり、成功の歴史的な背景や実績がある」