公民権運動を機に、差別を一掃しようと努めてきたアメリカ社会だが、いまだに人種や性別をめぐる差別は絶えない。実際、カリフォルニア州では、上場企業の役員の約9割は男性で、すべての企業をとっても、その4分の1は、たった1人の女性役員すら選任していない。
リベラルの牙城であるカリフォルニア州でさえそうなのだから、「もはやこの問題は、政府を動かし、民間に介入して、解決するしか手段はない」というのは、同州らしい考え方だ。とはいえ、問題も多く、反対も多い。
法案の原文を読んでみたが、「最近の調査で女性が登用された会社のほうが利益率は高いにもかかわらず、政府の研究では、この女性役員登用のペースはあと半世紀たっても変わらない。だから女性の人権のためにも州の経済のためにも強制措置が不可欠」という主旨だ。
成立すれば、2019年の年末までに、すべてのカリフォルニア州内の上場企業は最低1人の女性役員を登用することが義務付けられる。さらに2021年までに、役員6人以上の企業には最低3人の女性役員を必要とする、というような細かい規定も含まれている。
これを満たさないと、約1000万円の罰金、そして、2回目は罰金3000万円にまで膨れ上がる。3000万円の税収を得るには、セールスタックス(消費税)で考えれば、新たに約4億円の「商売」を同州に引っ張ってくることと同じだから、うがった見方をすれば、巨額の赤字に苦しむカリフォルニア州は、めったにない「新税」のネタを見つけたことになる。
ヒラリーが負けたことを想起させる
多くのメディアは、女性登用が経済にはプラスであるという仮説に賛同しているが、一方で国や州が民間企業にここまで関与することへの懸念も隠さない。
これまでも、人種や障害の有無による雇用差別と激しく戦ってきたアメリカ社会だが、それは差別行為に対する戦いであって、民間企業に対して「雇わねばならない」ということを国や州として強制したことはなかった。
そもそも、それは男性候補に対して逆差別となるのではないかという憲法議論もあり、その理由から、女性の参加が著しいカリフォルニア商工会議所でさえ、この法案に反対を表明している。
また、ロサンゼルス・タイムズは、むしろこの規制が「女性枠」「男性枠」をつくってしまい、優秀な女性を役員にしたくとも、枠に達したからこれ以上登用できないという状況を生み出すのではとの懸念も指摘している。
アメリカ市民の多くは、国や州に規制される前に、気がつけば実態経済が女性役員を積極的に登用していたという状態を願っていたはずだ。しかし、メディアが女性の活躍をとり上げる一方で、ニュースとならない社会の現場では思ったように女性進出が進んでいなかったということを見せつけられた感が強い。
大統領さえ、この250年近い合衆国の歴史でも男性ばかりだ。ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに負けたことは、選挙戦が終わって2年たっても、アメリカ市民にさまざまなことを想起させている。
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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